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放送文化基金について

設立40周年記念寄稿⑤

2014年に40回目の放送文化基金賞を迎え、番組部門のテレビドキュメンタリー番組、テレビドラマ番組、テレビエンターテインメント番組、 ラジオ番組、そして個人・グループ部門の放送文化、放送技術の6名の委員長に各部門の10年を振り返っていただきました。

テレビエンターテインメント番組部門
TVエンターテインメントを豊かなものにするために
堀川 とんこう 委員長

 放送文化基金賞にエンターテインメント部門が誕生したのは第23回の1997年である。クイズやバラエティ、お笑い番組などの存在を無視せず、賞の対象として議論し、検討しようとしたのである。しかし実際に贈賞するとなるとむずかしく、スタートから〈本賞・該当なし〉が続いた。真に顕彰に値するか、放送文化の発展に貢献するか、となると、ためらいもあったのだと思われる。第28回からエンタメ部門は休止になる。そして7年後の第35回に復活するのである。そもそもエンターテインメントという他のコンクールには見当たらないカテゴリーが、なぜ放送文化基金賞に設けられたのか。それが何故途中で休止されたのか。私は当時の議論の内容を知らないが、この部門が抱えている問題と関係があるような気がして興味深い。
 昨年の授賞式でこういう挨拶があった。
「我々の番組だけが“どバラエティ”なのでちょっと浮いてる感じがしないでもないですがー」(会場笑い)『新春全日本なまりうたトーナメント』で優秀賞を取ったプロデューサーの挨拶である。確かに重いテーマのドキュメンタリーやドラマが紹介された後に出てくると、流行歌をなまりで歌うという〈ふざけ切った〉趣向が受賞したことは、受賞者だけでなく会場の人たちにも冗談めいた印象を与えたのだ。また一昨年、 『IPPONグランプリ』という出色のバラエティ番組があり、凡百のバラエティとは一線を画すものと思ったが、議論が大きく分かれ本賞には至らなかった。結果として第36、38回は本賞なしとなった。
 この部門では出品する者にも選ぶ者にも、戸惑いがあるのである。エンターテインメントはつまりは娯楽番組なのだが、純粋娯楽番組では放送文化基金という固いタイトルにそぐわない、という意識が両者にあって、それをなかなか拭いきれない。それで、ソフト・ドキュメンタリー系、ヒューマン・ドキュメンタリー系、教養番組系の番組が多数参加してくる。純粋エンタメ系は、気後れしてしまうようなのだ。純粋エンタメ系は静かな審査室にもなじみにくい。「アホか!」とかいって一緒に笑ってくれる人がいて、そういうリアクションや笑い声に補完されてエンタメ番組は完結するものだからだ。
 参加番組の幅の広さを嘆く専門委員も多い。これらを同じ物差しで計ることは不可能だと。第40回の上位2番組は他のコンクールではドキュメンタリー部門に参加していたものだ。両者ともに優れた内容のものだから、おこがましい云い方だがドキュメンタリーで賞を逸した作品を救済したともいえる。しかし、このカテゴリーがドキュメンタリーB組のようになっては部門の存在理由がなくなる。教養番組系が純粋エンタメ系を駆逐してしまうことになってはいかにも残念だ。エンタメ番組の制作者は臆することなくこの部門に参加してほしいし、審査にあたる者は〈幾つかの物差しを持ち換えながら〉評点をつける努力をしなければならない。なにしろ番組表の真中を占めているのは膨大な数のバラエティなどのエンタメ番組で、私たち日本人はそれらから少なからず影響を受けて暮らしているに違いないからだ。バラエティと総称されるエンタメ番組は、なんら実用の役には立たないのが身上で、なまじの有益さには目もくれず無用の道を極めるべきだと私は思うが、無用の世界だからこそ、ユーモアの質だとか機知の楽しさだとかモラルの在りようだとか、やさしさ、礼儀、品位とか、つまりは民度という目に見えないものを問われるのではないか。
 第27回で中止し、第35回で復活させた先輩たちの苦悩を想像すると、この部門を大事にして、日本のテレビエンターテインメントを豊かなものにしたいと思う。それがこの部門の役割であるに違いない。

(2014年9月30日)