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放送文化基金賞

テレビエンターテインメント選考記

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意外にもNHKの健闘目立つ
堀川とんこう

 結果的には、この部門にふさわしい、楽しいものを選ぶことができたと思うが、選考の途中で葛藤がなかったわけではない。選外になった鹿児島テレビの『負ケテタマルカ!!』は、特異な絵画作品を残して亡くなった脳腫瘍の少年を、十二年にわたって追ったドキュメンタリーである。長期取材で十分に厚みのある番組になっているが、こうなるといよいよドキュメンタリー部門にふさわしい作品ということになる。これまでにも何度か放送した素材で、今回は総集編のようだが、最後の部分に付け足し感がある。全体を見直して、ドキュメンタリー作品として完成版を作ってほしい。
 この分野で新機軸を連発しているテレビ東京の『池の水ぜんぶ抜く大作戦』は、抜群のアイディアで期待したが、参加した回はやや新鮮味に欠けた。奨励賞『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』のほか、賞を争った『超絶 凄ワザ!奇跡のヴェネチアン・グラスに挑め!』『時空超越ドラマ&ドキュメント 美子伝説』、いずれもNHKの調査、取材の力量が表れた力作で、バラエティがこういう時期に入ったと感じさせた。

不安と心配を覆す楽しさ
伊奈かっぺい

 世の中すべて、生きていることすべてが面白可笑しいにこしたことはないだろうが現実はその逆が多いだろう。だからこそ積極的に何かに接する時は現実を超えたモノを見たい触れたいと思うのが常ではないだろうか。
 そこに多少の思惑やら工夫を凝らし少々の不安と心配を煽っておいて見事綺麗に拭ってご覧にいれる。エンターテインメントを直訳するとこうなるのではないかと、ずっと思ってきたし思っている自分が・・・心配で楽しい。
 『クレイジージャーニー』 はじめから終わりまで私が思う“直訳”で魅せてくれた。カメラマンの不安心配がそのまま楽しさに。
  『日々好日〜河和田のお達者4兄弟〜』  老いそのものがすでに不安心配と感じている身にしてみれば彼らの一挙手一投足が私の思う“直訳”であった。
 『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』  珍名サンを扱った番組は多々記憶にあるが、そうか・・・ごく当たり前にある人名・苗字の探究とは思いもよらなかった私の不安を楽しませてくれた。

攻めの姿勢しかない番組が最優秀賞に輝いた歓び
豊﨑由美

 なぜ、放送文化基金賞に応募してきてくれないんだ! わたしにはそういう不満を抱いているバラエティ番組がいくつかあるのですが、ついに、ついにやってきました、個人的に欠かさず視聴している『クレイジージャーニー』が。
 今回「出演者賞」も授与することになった爬虫類ハンターの加藤英明さん以外にも、この番組はこれまでに大勢の強者をフィーチャーしてくれています。危険な裏社会に潜入取材を試みる丸山ゴンザレスさん、身体改造マニアを紹介するケロッピー前田さん、どんな狭い空間でも潜りこんでいく水中探検家の広部俊明さん、アイドルばなれした距離まで火山口に近づいていく滝沢秀明さんなどなど。
 そういった常軌を逸した情熱の持ち主を多々紹介してくれる『クレイジージャーニー』が、今後もアグレッシヴさを失わず、わたしたち視聴者を驚かせ続けてくれますように。最優秀賞、本当におめでとうございます!

「にんげんっていいな」
桧山珠美

 バラエティだけでなく、ドキュメンタリーからドラマ仕立てのものまで、エンタメの幅は広い。金子みすゞの言葉を借りれば「みんな違って、みんないい」。それをひとつのものさしで測るのはなかなか難しいこと。異種格闘技の審判になった気分で、頭と心を柔軟に、作品に挑んだ。
 最優秀賞『クレイジージャーニー』は、独自のこだわりをもつ旅人を通じて、視聴者に見たこともない映像を見せてくれる。コンプライアンス云々を隠れ蓑に、ただ萎縮するばかりの昨今のテレビ界にあって稀少な攻めた番組だ。優秀賞『日々好日〜河和田のお達者4兄弟〜』はきんさんぎんさんの男性版、超高齢社会のなかで、いかにしていきいきと生きるかを見せてくれた。
 奨励賞『小野田さんと、雪男を探した男 鈴木紀夫の冒険と死』は戦後29年もの間、ルバング島に身を潜めていた小野田元少尉と彼を連れ戻した冒険家・鈴木紀夫の友情物語。
 これら3作品の根底にあるのは“人間賛歌”。「にんげんっていいな」と心底思う。
 もうひとつの奨励賞『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』は知的好奇心をくすぐられる懐かしさ満載のバラエティ。まさにエンタメの王道!

心が揺さぶられるもの
水島久光

 今年のテレビエンターテインメント部門にはいくつかの収穫があった。
 その一つが地方発のドキュメンタリー。特にヒューマンタッチな番組に秀作が多かった。優秀賞となった福井テレビの『日々好日』は、まさにその代表格。長期の取材で磨き上げていくうちに、日常から拾い上げた原石が宝石になった  その輝きは、胸に響いた。
 教養番組にも、新境地が見られた。演出で「面白く見せる」のではない。最優秀賞の『クレイジージャーニー』では特に、科学や歴史的素材そのものの面白さを引き出すキャスティングやカメラの力に圧倒された。画面に引き込まれ、時間を忘れるという感覚も、エンターテインメントの醍醐味である。
 しかし個人的に最も心に残ったのは『小野田さんと、雪男を探した男』である。正直、鈴木紀夫という人物を僕は忘れていた。それは「1970年代」という過去の忘却でもある。小野田寛郎ではなく彼を主人公に据えた企画力にしてやられた。鈴木の、憑かれたように「未知」を求めた欲望こそがあの時代のリアルであり、それは同時に小野田を戦地に止まらせた妄執だったのだ。だから彼らは通じ合った。それに気づいたとき「なんと哀しいドラマだろう」と思い、そして「現代」を想った。
 ドラマでもドキュメンタリーでもいい。心が揺さぶられたとき、それはきっとエンターテインメントなのである。