設立40周年記念寄稿①
放送文化基金は、放送文化の発展向上に寄与することを目的として、放送に関連する調査・研究、事業に対する助成を行っています。技術開発部門、人文社会・文化部門の両委員長に、この10年を振り返って助成事業で基金が果たした役割、また、今後の研究への期待や課題についてご寄稿いただきました。
技術開発 審査委員長 羽鳥 光俊(東京大学名誉教授)
放送文化基金の助成事業、技術開発部門のお手伝いをさせていただいている御縁でこの稿を書かせていただいて居ります。助成事業、40周年、誠におめでとうございます。
若かった助教授時代に、放送文化基金の助成を頂戴し有難かったことを思い出します。アダマール変換という、1と-1を成分に持つアダマール行列という直交行列による直交変換で、フーリエ変換の周波数成分への変換に似たシーケンシー型構造を持つアダマール行列による直交変換の放送への応用の研究でした。
若手研究者・技術者に喜んでもらえる助成が出来ることを願っています。
放送文化基金の助成事業は、基金の運用益を財源とするものであり、必ずしも潤沢な財源によるものではありません。助成金額も助成件数も限られたものであります。景気の回復による運用益の回復は、来年度の助成の金額、件数の回復に直結する明るい話題であります。
40代、50代の働き盛りの研究者・技術者は、企業や組織の大きな研究費や、文科省の科研費、総務省や経産省の大きな委託研究費等を頂戴して研究することが可能でしょう。しかし、大きな額でなくとも良いから助成してほしいという要望も大事にしたいと存じます。
平成13年度の助成分の、近畿大学教授江藤剛治先生の「100万枚/秒のHDTVカメラの開発と科学技術の啓蒙への適用」はそのような研究であったと存じます。「斜行直線CCD画素周辺記録型撮像素子 (ISIS)」の原理は、近畿大学の江藤先生、リンクリサーチ株式会社、株式会社島津製作所、フィリップス、オスナブリュックス応用科学大学の共同研究に始まったものだそうですが、HDTVに対応する多画素数化、信頼性・歩留まりの向上については大きな研究・開発費が必要であり、早い時点で、NHK放送技術研究所との共同研究・開発が進められ、その成果の「ハイスピードHDTVカメラ」は、NHKにより速やかに実用化されたのでした。江藤先生にとってもNHKにとっても実り多い、放送文化基金の誇れる研究・開発の助成であったと存じます。
60代となり、功なり名とげ、企業や組織を引退した研究者・技術者に喜んでもらえる助成も、大事にしたいと存じます。
また、放送と密接に関係するとは必ずしも言えない、基礎科学的な研究の助成も大事にしたいと存じます。
放送のデジタル化は、大きな転換でした。沢山の新しい放送技術の研究・開発、新しいサービスの実用化が行われました。大きな金額の投資も行われました。2年半前の2011年7月に全国のテレビジョン放送がデジタル化され、放送のデジタル化がほぼ完成しました。放送のデジタル化が一段落し、放送文化基金の助成への応募件数もひところよりやや少なくなりました。
しかし、安倍政権による研究開発による景気の浮揚政策に沿った官民挙げての取り組みや、また、2020年のオリンピックの東京招致が決まったことにより、4Kや8Kのテレビジョンや、ハイブリッドキャストなどの新技術・新サービスの研究・開発・実用化の前倒しが進められつつあります。助成・援助への応募の増加が予想されます。
放送文化基金の助成の御清栄を祈念申し上げます。