設立40周年記念寄稿②
放送文化基金は、放送文化の発展向上に寄与することを目的として、放送に関連する調査・研究、事業に対する助成を行っています。技術開発部門、人文社会・文化部門の両委員長に、この10年を振り返って助成事業で基金が果たした役割、また、今後の研究への期待や課題についてご寄稿いただきました。
人文社会・文化 審査委員長 濱田 純一(東京大学総長)
放送文化基金が設立40周年をお迎えになることに、心よりお祝いを申し上げたい。私も放送研究の道を志してからちょうど40年ほどになるので、格別の感慨がある。放送文化基金のスタート間もない頃、その助成を受けて伊藤正己先生が代表をなさっていた「放送通信制度研究会」の末席に加えていただき、ヨーロッパ各国の公共放送の動向を現地で調査して大いに目を開かれた。この研究会には、放送文化基金の現理事長でいらっしゃる塩野宏先生を始め、この分野で当代随一の研究者、実務家、評論家が参加なさっており、研究会に参加させていただくことがなければ、研究者としてのいまの私は無かったと思う。
いま、助成審査に携わらせていただきながら思うのは、私自身のように、放送文化基金からの助成を得たことが、研究をはじめ放送に対する関わりが一生続くようなきっかけとなればよいな、ということである。もちろん助成対象には、すでにすぐれた業績をあげておられる研究者も少なくない。ただ、審査にあたる立場での面白さということで言えば、若手の、あるいはこれまでにはない分野からの研究者たちを「発掘」する時である。正直、その発掘がすべてうまくいくとは限らない。ただ、申請に基づく研究の成果は、研究終了後にしっかりと拝見させていただくので、その時に審査にあたったメンバーは、自分の「目利き」の確かさ、不確かさに、一喜一憂することになる。
助成部門として人文社会と事業援助の両部門が統合され、私が人文社会・文化部門の審査委員長を務めさせていただくようになってから、もう10年になる。人文社会研究系に対する助成ということでいえば、かつて助成申請には、伝統的なマスコミ研究の枠の中のものが多かったような印象があるが、だんだんと、教育学や心理学・文化人類学など分野の裾野が拡がっているように感じる。また、放送に関する歴史資料的な研究が増えてきたのも、放送文化が相応の年齢を重ねてきた結果であろう。グローバル時代にふさわしく、東アジア地域をはじめとする国際的な放送研究も増えている。それぞれの時期の具体的なトピックに応じた研究も多い。地上波デジタル化に関する研究はその典型である。また、東日本大震災の発生に伴い、関連の研究助成申請も大きく増加した。ここでの研究成果が、自然災害から人々の生命財産を守ることに十分に生かされていくことを、強く期待したい。
事業系の助成には、助成の判断が難しいものも少なくない。どの申請を見ても意義は大きく、何とか助成できればと思うが、放送文化がより広く社会に浸透していくきっかけとなりそうなものを優先しながら、苦心して選択させていただいている。放送文化基金の助成活動が、これからも、さらに多くの研究者や多彩な文化を育て、この社会をいっそう豊かにしていくために寄与できることを、心から願っている。