設立40周年記念寄稿④
2014年に40回目の放送文化基金賞を迎え、番組部門のテレビドキュメンタリー番組、テレビドラマ番組、テレビエンターテインメント番組、 ラジオ番組、そして個人・グループ部門の放送文化、放送技術の6名の委員長に各部門の10年を振り返っていただきました。
河合 祥一郎 委員長
第34回(2008年)よりテレビドラマ部門の選考委員(第38回より同委員長)を務めさせていただいているが、ドラマ部門を振り返って思うのは、ハムレットの有名な言葉――「芝居の目的とは、昔も今も、いわば自然に向かって鏡を掲げ、・・・・・・時代と風潮にその形や姿を示すことだ」――が、テレビドラマにも当てはまるということである。
ドラマは時代を写し出す。第34回以降を振り返ってみると、戦争や震災といった負の記憶と向き合うドラマが多かったように感じられる。第34回に本賞(現・最優秀賞)を受賞した『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』は、戦争で片腕を失い、仲間を失った水木しげるが怒りを籠めて描いた自伝的戦記漫画「総員玉砕せよ!」を香川照之主演でドラマ化したものであるが、日本が戦争できる国に変わる可能性が問われ出した今、この作品の重要性はますます高まった。
人は痛みを忘れるから前へ進めるところもあるが、だからと言って過去の痛恨を忘れてはならない。阪神・淡路大震災の十五年後、当時こどもだった男女(森山未來、佐藤江梨子主演)の「あの時の記憶」をたどった第36回本賞『その街のこども』は、震災の記憶を抱えて生きる若者の姿を描いて共感を呼んだ。
事件そのものを描くことではドキュメンタリーの力に及ばないかもしれないが、ドラマはその記憶とともに生きる人々の心を深く掘り下げることができる。第40回最優秀賞の山田太一作『時は立ちどまらない』(中井貴一、橋爪功ほか出演)は、東日本大震災後3年を経て、被災者とそうでない者とがともに生きていく姿を描いた。時代がこうしたドラマを求めているのである。
もちろん死は日常に潜むものであり、緒形拳の遺作となった『風のガーデン』(第35回本賞)では、人生の盛りで自らの死に直面した主人公(中井貴一)が家族とともに生きる大切さを噛みしめる。
そしてまた、死ばかりがドラマのテーマとなるわけではない。藤原竜也主演の『遺恨あり明治十三年最後の仇討』(第37回本賞)は、裁判員制度が始まって時代とともに変わる法制度と日本人の「裁き」に対する意識のずれを、実話をもとに問いかけた。そのほか、圧倒的なスケールの『坂の上の雲』(第38回本賞、本木雅弘主演)のような歴史劇もあれば、『リーガル・ハイ』(第39回本賞)のような異色な作品もあった。
このように多岐にわたるテレビドラマは、映画演劇と肩を並べる芸術ジャンルとして高い完成度を誇っている。
テレビドラマを見つめることで、私たちが今どこへ向かっているのかが見えてくる。テレビドラマは今後も時代を写し出す鏡として機能してくれるだろう。