HBF 公益財団法人 放送文化基金

文字サイズ:

HOME放送文化基金賞受賞のことば 第40回【番組部門】テレビドキュメンタリー番組部門

放送文化基金賞

受賞のことば 第40回【番組部門】テレビドキュメンタリー番組部門

★最優秀賞

ETV特集 三池を抱きしめる女たち
~戦後最大の炭鉱事故から50年~

(NHK福岡放送局、NHK熊本放送局)

 この作品は何よりも、“三池の女性たち”が持つ大きな力によります。そして彼女たちとの協同作業の結果です。制作の様々な過程で、私たちスタッフも涙を流してきました。普通の主婦であった彼女たちの人生は変えられ、50年という気の遠くなるような歳月を、国と企業と自分と闘いながら、現実から逃げずに生きてきました。事故は決して過去のことではなく、今につながるこの国のありようを示しています。それを、夫婦の日々の生活を通じ描きたかったのです。もう彼女たちを撮り続けて10年以上がたちました。その後ろには、私たちの生活を支え続けてくれた名もない無数の人々がいます。これからもその事実を大切にしていきたいと思います。

映像ジャーナリスト 熊谷 博子

★優秀賞

ドキュメンタリースペシャル フェンス
~分断された島・沖縄~

(BS-TBS)

 「出張ベースでちょこっと来て沖縄の何ほどがわかるのだろうか」。本土からの取材者はいつも、そういう畏れを抱く。私たちには、特別な人脈や驚くような情報源がある訳でもない。あるのは、取材の中心になった松原耕二記者の「最初から結論を決めつけずに、人々の話をちゃんと聞いていきたい」という強い思いと、それを支えた若いディレクターたちの「予算が少ないのは汗と工夫で何とでもなる」という明るい努力だけだ。専用カメラマンもVEも運転手もいない。空撮は、ラジコンで撮る。でも、そんなデジカメ主体の取材者に、人々は、じっくり話をしてくれた。その思いを裏切るまいと、言葉をできるだけ、きちんと引用する編集を心掛けた。そんな番組を選んで頂き、本当に勇気づけられる思いです。

BS‐TBS 真木 明

●奨励賞

どーんと鹿児島 千年後の森が見える
屋久島・山師の物語

(南日本放送)

 「屋久島の森は、世界一の森」生前、髙田さんは若者たちの前で、そう語ったことがあります。数千年を生きる屋久杉と、森に寄せる思いが伝わる言葉でした。世界自然遺産となった屋久島には毎年、30万人もの観光客がやってきます。しかし、この森で大伐採が行われたこと、そして髙田久夫という苗木を植え続けた山師がいたことは、ほとんど知られていません。番組として、深い森の奥で営まれる山師の世界を記録できたことに、改めて感謝しています。「千年後の森」復活への思いは、若い衆に託されました。それは自然とともに受け継がれていく、屋久島の「人の遺産」でもあると思っています。

南日本放送 山下 浩一郎

●奨励賞

戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか
第5回 福島 浜通り 原発と生きた町

(NHK)

 原発誘致とは何か。積極、消極を問わず、立地に関わった人々が、それぞれの立場で考えなければならない問題なのではないか。地元自治体の住民、福島県や国の行政担当者、東京電力や関連企業の社員、そして取材者1人1人が、その問いと向き合いました。そこには、推進か反対かといった二項対立の構図では解けない複雑さがありました。今回の受賞は、わかりやすさを得意とするテレビにあって、単純な解を求めず現実と格闘した姿勢に対し、叱咤激励をいただいたのだと受け止めています。7月から新たに取り組むのは、科学者や言論人など知の巨人たちの戦後史証言シリーズ。人々の息づかいや苦悩、葛藤を通じ、文字資料だけでは見えない歴史に挑みます。

NHK 浜田 裕造

●奨励賞

NHKスペシャル 終わりなき被爆との闘い
~被爆者と医師の68年~

(NHK広島放送局)

 番組放送後、多くの方から「まだ、こんなお医者さんがいらっしゃるのですね」という感想をいただきました。被爆者が一生抱える「終わりのない苦しみ」。それに寄り添い続ける医師たちの姿は、原爆という非人道兵器への怒りだけでなく、何か大切な「あたたかいもの」を、私たちに投げかけてくれます。私たちは、被爆地の放送局として、悲惨さや苦しみと共に、その中でも前を向いて生きていく人たちの気高さ、あきらめずに闘う強さも伝え続けていかなければならないと、改めて思っています。

NHK広島放送局 井上 恭介