HBF 公益財団法人 放送文化基金

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放送文化基金賞

放送文化・放送技術の講評

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放送文化 講評
河野尚行 委員長

 今回の推薦数は15件。いずれもこの部門の賞に値するものばかりだが、長年の放送活動の上に、この一年の活躍が特に著しかったかどうかに、重きを置いて審査を進め、次の4件を選出した。
 毎日放送制作の夜のバラエティにユニークなコーナーがある。タレントに俳句を作らせ、厳しく添削。お笑い芸人に思わぬ才能を発見する楽しみや、長々とした説明や言い訳を、一言でバッサリ切り捨てる爽快さもある。一語の削除や場所移動が日本語表現に命を与える感動もある。その俳句の採点者・俳人夏井いつきを表彰することにした。夏井は『NHK俳句』の選者も務めていた。この人をバラエティに引っ張り出したプロデューサーもさすがと云える。
 東日本大震災後に活躍した臨時災害FM放送局の大部分は昨年3月までに、その役割を終えた。その中で『佐藤敏郎のOnagawaNow!大人のたまり場』制作スタッフは、その志と働く場をコミュニティFM局に移し、自分たちの被災地に引き続き発生する様々な話題を放送し続け、全国各地のFM局にもネット放送している。地域の様々なパワーを巻き込み育て、持続していくコミュニティ力が頼もしい。
 NHKの「発達障害プロジェクト」、目に見える障害者への社会の理解は多少進みつつあるが、「発達障害者」の実態には如何に無知であるかを思い知らされた。障害の種類も程度も様々で、この社会で共に生きるための課題を沢山抱え込んでいる。現場ロケや視聴者の反応を生かしたスタジオ生番組制作も含め、発達障害者とその家族、特にお母さんに寄り添う姿勢と継続力が高く評価された。
 「NHKロボコン」。30年前に国内の高専を対象に始まった手作りのロボットコンクールが、今や東南アジア全域の若者を巻き込み、知恵と技術と情熱を傾けて競い合う大イベントに成長、放送としても大変楽しい番組になる。AI時代を先取りした国際的な放送文化事業と云えよう。

放送技術 講評
羽鳥光俊 委員長

 今年の応募件数はNHK2件、民放7件の合計9件で、昨年より4件少なかったが、いずれも放送の充実に大きく寄与するものばかりで、熱意を持った取り組みに心から敬意を表する。選ばれたのは以下の3件である。

・フジテレビが開発した「クラウドプレイアウトシステム」
 インターネット配信専用チャンネルの開設に伴い送出システムの構築が必要になるが、本システムは、クラウド上にシステムを構築することにより、従来型に比べ経費の低廉化を実現するとともに運用の簡易化、効率化さらにはチャンネル増等、拡張の簡便化を図った。今後増加が予想されるネット配信へ向けて、送出システムを低コスト、低リソースで構築できることは評価できる。今後の運用の中で高信頼性、安定性の実証を期待したい。

・日本テレビ放送網などのグループが開発した「ロードレース中継における画像認識技術を用いた制作支援〜AIを用いたReal-time Indexing〜」
 駅伝中継におけるラップタイム表示はこれまで並走する中継車画像を人手で確認し表示していたため、長時間ではミスの発生もあり課題であった。本装置では出場校の選手をAIに学習させラップタイム表示を自動生成するとともに、重要シーン自動抽出機能等も加え、駅伝中継業務の効率化、高度化を実現させた。他の番組ジャンルへの応用も含めAIを活用し番組制作業務の効率化、高度化を実現できたことは評価できる。

・NHKなどのグループによる「8K小型カメラの開発と実用化」
 8K・SHV放送の実用化へ向け当初の80kgを超えるカメラの小型化は8Kコンテンツ制作上必須の課題であった。新たな撮像素子の開発や信号処理の最適化により高感度化、HDRへの対応等高性能化を図りつつカメラ重量を当初の1/10以下に小型化し、現行TV放送と同様なコンテンツ制作を可能とさせたことは高く評価できる。今後、国内にとどまらず海外も含め、広く映像制作に活用されることが期待できる。