HBF 公益財団法人 放送文化基金

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放送文化基金賞

受賞のことば 第50回 ドキュメンタリー部門

最優秀賞

ETV特集「膨張と忘却~理の人が見た原子力政策~」

(NHK福岡放送局)

左から石濱陵さん、野口真郷さん

 「当たり前の事を当たり前に言っているだけ」。それが、吉岡斉さんの口癖だったそうです。原子力政策が“膨張”し、後に安全神話と言われることになる過信状態の日本で「利害を超えて、議論を尽くす」当たり前が、いかに困難な事だったのか。取材の過程で思い知らされる日々でした。それでも、信念を貫いた吉岡さんが原発事故後、私たちに託したのは「被災した人々を“忘却”せず、原子力政策に関心を寄せ監視して欲しい」という願いでした。受賞をきっかけに、より多くの方に、その吉岡さんの生き様と願いが伝わればと思います。最後に、膨大な資料を遺してくださった吉岡さんと取材に応じて頂いた皆さまに深く感謝申し上げます。
NHK福岡放送局 石濱 陵

優秀賞

鷹を継ぐもの
(テムジン、NHKエデュケーショナル、NHK)

左から高倉天地さん、鐘川崇仁さん

 「自然の中で鷹と生きたい」。たった一つの夢を半世紀も追い続けてきた孤高の鷹匠、松原英俊氏がどうやってその人生にケリをつけるのか。私はどうしても見届けたいと思いました。世界の鷹狩りの歴史は4000年以上前、中央アジアが起源だと言われます。現在、クマタカを使って雪山での狩りの技術を持っているのは松原氏だけ。その彼が初めて弟子をとるかもしれないという事態に。相手は都会育ちの高校生・宗萌美さん。私はその歴史的瞬間に立ち会えている幸運を噛み締めながら、夢中でカメラをまわし続けました。現在、宗さんは高校を卒業して松原氏の家に住み込んで、本格的な修行を始めています。私は二人の行く末を見届けるため、これからも取材を続ける所存です。
テムジン 高倉天地

奨励賞

NHKスペシャル
原子爆弾秘録
〜謎の商人とウラン争奪戦〜

(NHK広島放送局)

左から宮島優さん、大小田紗和子さん

 広島で14万、長崎で7万とも言われる命を無差別に奪った原子爆弾。番組は、その原料となった高純度ウランを扱ったひとりの商人に焦点を当てました。残された資料や関係者の取材から感じたのは、「死の商人」としてだけでは割り切れない複雑性です。家族を守るため、会社を大きくするために奔走したビジネスパーソンとしての側面。その欲望が、「強大な力を有する」という国家の欲望に利用されていった側面。そして、その結果生み出された膨大な犠牲―こうした事実は、今も世界各地で続く戦争の影で、利益を得ようとしている人たちがいること、いつだって人類はその過ちを繰り返す可能性があることを私たちに訴えかけているように思います。
NHK広島放送局 宮島 優

奨励賞

BS1スペシャル
“戦い、そして、死んでいく„
〜沖縄戦 発掘された米軍録音記録〜

(NHK沖縄放送局)

左から三宅佑治さん、小池幸太郎さん

 太平洋戦争の映像は数多くありますが、戦場で録音した音声がこれほど大量に残っていることに驚きました。当時、映像と音声の収録機材は別々。カメラで撮影できる映像は1カット十数秒でしたが、音声は分単位で録音することができたため、期せずして兵士たちの生々しいやり取りがそのまま刻まれていました。その声は、兵士一人ひとりの感情を浮かび上がらせ、私たちを80年前の戦場に連れていってくれます。
 遠ざかる戦場の記憶をいかに伝え続けるか。特に、沖縄戦の実相を全国の人々の心に届けることは、ますます困難になっていると感じます。つらい体験をお話くださった100歳前後の元アメリカ兵の方々、沖縄の方々に心から感謝申し上げます。
NHK沖縄放送局 三宅佑治

奨励賞

OTV報道スペシャル
続・水どぅ宝
〜PFAS 汚染と闘う!Fight For Life〜

(沖縄テレビ放送)

左から平良いずみさん、松本早織さん

 「PFAS」による水汚染が沖縄で発覚した8年前、1歳になる息子にせっせと水道水を煮沸してミルクを与えていたディレクターの私は、怒りと不安で震えが止まりませんでした。同じ不安を抱く人たちに情報を届けたい、その一心で取材を続けてきました。
 問題発覚から8年、沖縄では「汚染源が米軍基地である蓋然性が高い」とされながらも日米地位協定が壁となり基地内への立ち入り調査すら実現していません。それでも、未来の命の為に諦めるわけにはいかないと行動し社会を前進させる市民の皆さんが沖縄にとっての“希望”。全国で汚染が広がる実態が明るみに出る今、その希望が未知の汚染物質への不安を募らせる人々の灯となる事を願ってやみません。
沖縄テレビ放送 平良いずみ