全国制作者フォーラム2018を開催しました
- 日時:2018年2月17日(土)
- 会場:ホテルルポール麹町
- 主催:放送文化基金
2017年秋に「北海道・東北」「愛知・岐阜・三重」「九州・沖縄」の3地区で開催した制作者フォーラムでのミニ番組コンテスト入賞者を招き、現在活躍している3人のテレビ番組制作者とコーディネーターの丹羽美之さん(東京大学准教授)をゲストに迎え、全国から制作者や放送関係者約90名が集まり、熱いトーク、意見交換が行われ、交流を深めました。
制作者フォーラム3地区のミニ番組優秀作品上映と意見交換
各地区で行われたミニ番組コンテストで優秀作品に選ばれた番組を上映し、すべての作品についてゲストに講評をもらい、会場の参加者を交えて意見交換を行いました。また、上映された番組の中から4名のゲストに気に入った番組を選んでいただき、懇親会の場で発表、表彰しました。
●北日本制作者フォーラム(北海道・東北地区) |
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『青森の路地裏 懐かしの味』 伊藤 正人、橋本 進也(NHK青森放送局) |
『teshigoto file.17~最後の職人~』 坂本 佳子(青森朝日放送) |
『やまがたColor~伝えたい昭和の記憶~』 中村 慎一(さくらんぼテレビジョン)☆佐々木賞 |
●愛知・岐阜・三重制作者フォーラム(愛知・岐阜・三重地区) |
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『スタイルプラス 東海仕事人列伝~すし職人~』 鵜澤 龍臣 (東海テレビ放送) |
『前略、大徳さん』 守屋泰斗(中京テレビ放送)☆植松賞 |
『ニュースシブ5時 日本一の美ボディー県・三重県!?その秘密を探る』 原 英輔(NHK津放送局)☆伊藤賞 |
●九州放送映像祭&制作者フォーラム(九州・沖縄地区) |
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『九州豪雨 あの時私は』 石田 大我(九州朝日放送)☆丹羽賞 |
『KKBスーパーJチャンネル アマミノクロウサギを救え!』 杉本 寛久(鹿児島放送) |
『ドキュメント九州 白衣のメロディ』 吉井 誠(テレビ長崎) |
トークセッション
初めに、コーディネーターの丹羽氏が、「最近のテレビは先が読めてしまう。テレビが冒険しなくなっているのでは?」という問題意識を提示し、現在テレビ界で活躍する3人の制作者と語り合いました。
テレビ東京の伊藤氏は、『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』の企画を立ち上げた際に、編成担当者から、「企画の保険は?」(=視聴率をどう担保するのか)などと反対されながらも、「なんか面白そう」という直感を信じ、放送を実現させたといいます。実際に池の水を抜くと、わからないことだらけで、専門家にその場で疑問を解説してもらい、それをありのままに放送。結果的に「生物多様性、外来種の問題」に気づかされたと語りました。また、「テレビのラテ欄はものすごいヒント。あそこに載っていないものをやればいい。」「マーケティングに大成功している日テレさんの真逆を行く。」などユニークな発想方法の秘訣を惜しみなく公開してくれました。
そんな伊藤氏の番組を、NHKの植松氏は「バラエティっていうよりもドキュメント」だとコメント。「池の水を抜いたら確かにそれは見てみたい」と誰しもが思う絶妙なテーマ設定を高く評価し、自身も刺激を受けているとのこと。上司からは「お前はNHKのテレ東になれ」と言われるなど現場の空気が変わりつつあり、今がチャンスだと話しました。『ドキュメント72時間』は、2005年にパイロット番組が作られた当初から、「脱・予定調和」を目指していて、取材者の驚きや発見、気づきをそのまま伝えるため、日々奮闘しているといいます。一方、「取材には人生経験や人間力が必要。普通の人が何気なく発した一言から、現実の社会問題などをいかに汲み取れるか」が鍵とのことで、「お酒を飲みながら気楽に見られる番組の中に、リアルな問題がふと浮上すると痛快じゃないですか。」と、プロデューサーとしての思いも語りました。
山口放送の佐々木氏も、『池の水』『72時間』について、予想もしなかった現実が目の前にあるという点で、自身が手掛けるドキュメンタリーの手法ととても似ていると感じたといいます。また、『二人の桃源郷』など、ヒューマンドキュメンタリーを数多く手掛けてきた佐々木氏が、近年、『記憶の澱』など、戦争ものを作るようになったのは、業界の先輩たちに、「騙されたと思ってちょっと調べてみろ」と言われ、調べ始めたら知らないことだらけで愕然としたことが出発点だったそうです。その際に、「初めに企画書を書くと、そこに向かってしまうので、何も決めずに疑問を一つずつ解消していき、その積み重ねが番組になった」と語りました。また、「あの人たちに会いたい、学びたい!」という気持ちを大切に、取材対象者に「その場にいさせてもらう、カメラ、マイクを向けさせてもらうこと」が日々の課題だと話しました。
最後に、会場の若い制作者に向けて、4人のゲストが次のような激励の言葉をかけました。「全部机の上で決めないことが面白い、見ている人もそれを期待しているのでは。」(佐々木氏)、「今まで培ってきた話法を疑って一回壊してみる。若いディレクターさんにこそ自由な発想でやってもらいたい。」(植松氏)、「スタッフの中に感性の合わない人を入れて自分と異なる意見にも耳を傾けるようにする。“テレビってやり尽くされたよね”という考えを疑い、画面の中に“非日常”を映し出そうとする。あとは素直さと勇気でぶつかっていくことですね。」(伊藤氏)、「いま問われているのは、制作者は本当に表現の自由を生かし切っているかということ。若い人たちがこの場をきっかけに、明日から持ち場に戻って新しいテレビの表現・文化を創り出してほしい。」(丹羽氏)。
ゲスト プロフィール
伊藤 隆行(いとう・たかゆき) テレビ東京 プロデューサー
1995年テレビ東京入社。『モヤモヤさまぁ~ず2』(毎週日曜 夜6時30分)、『さまスポ』(毎週土曜、夜6時)、『にちようチャップリン』(毎週日曜 夜10時)、『バカリズムの30分ワンカット紀行』(BSジャパン毎週月曜 夜11時30分)や特番『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』、『やりすぎ都市伝説』など、多数のバラエティ番組を手がける。
植松 秀樹(うえまつ・ひでき) NHK制作局 チーフ・プロデューサー
石川県金沢市出身。2001年にNHK入局後、「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」を始め情報・ドキュメンタリー番組を数多く手がける。2010年に『素数の魔力に囚われた人々~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~』で日本賞グランプリ受賞。現在は、街角で3日間の出会いを記録する「ドキュメント72時間」のプロデューサーを務める。「ノーナレ 諦めない男 棋士 加藤一二三」など開発・特集番組もときどき制作。
佐々木 聰(ささき・あきら) 山口放送 報道制作局 ディレクター
1995年山口放送入社。情報番組を担当する傍らドキュメンタリーを制作。文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞、放送文化基金賞(放送文化)受賞。主な番組に「記憶の澱」(日本放送文化大賞グランプリ、民放連最優秀賞)、「奥底の悲しみ」(日本放送文化大賞グランプリ、民放連最優秀賞、文化庁芸術祭優秀賞)、「ふたりの桃源郷」(日本放送文化大賞グランプリ、キネマ旬報ベストテン第1位、文化庁映画賞優秀賞)、「笑って泣いて寄り添って」(民放連最優秀賞、文化庁芸術祭優秀賞)など。
丹羽 美之(にわ・よしゆき) 東京大学准教授
1974年生まれ。専門はメディア研究、ジャーナリズム研究。主にテレビ文化やテレビ・ジャーナリズムについて研究している。著書に「テレビ・ドキュメンタリーを創った人々」(共著、NHK出版、近刊)、「記録映画アーカイブ2 戦後復興から高度成長へ」(共編、東京大学出版会、2014年)、「メディアが震えた テレビ・ラジオと東日本大震災」(共編、東京大学出版会、2013年)などがある。