全国制作者フォーラム2019を開催しました
- 日時:2019年2月16日(土)
- 会場:如水会館 2階「オリオンルーム」 東京都千代田区一ツ橋2-1-1
- 主催:放送文化基金
2018年秋に全国5地区で開催した制作者フォーラムでのミニ番組コンテスト入賞者を招き、現在活躍している3人のテレビ番組制作者とコーディネーターの丹羽美之さん(東京大学准教授)をゲストに迎え、全国から制作者や放送関係者約70人が集まり、熱いトーク、意見交換が行われ、交流を深めました。
制作者フォーラム5地区のミニ番組優秀作品上映と意見交換
各地区で行われたミニ番組コンテストで優秀作品に選ばれた15番組を上映し、すべての作品についてゲストが講評、会場の参加者を交えて意見交換を行いました。また、上映された番組の中から4人のゲストに気に入った番組を選んでいただき、懇親会の場で発表、表彰しました。
ミニ番組優秀作品(上映順)
北日本制作者フォーラム in さっぽろ(北海道・東北地区) |
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『運河の街に響くピアノの音』<9分10秒>佐藤 雄亮(札幌テレビ放送) |
『“おい宮さん”を探せ!』<8分4秒>河村 直宏(NHK仙台放送局) |
『私だから見えるCOLOR』<3分50秒>小川 祐(NHK盛岡放送局) |
北信越制作者フォーラム in かなざわ(北陸・長野・新潟地区) |
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『商店街に灯りを 小さな寿司店の歩み』<5分>岡田 健一(テレビ新潟放送網) |
『5刀流で世界を目指す ~格闘少女 堀田みず希~』<4分50秒>松澤 光聡(チューリップテレビ) |
『それぞれの温もり求め ―長野市最古の公衆浴場-』<5分>仁科 賢人、工藤 賢司(長野朝日放送) |
中四国制作者フォーラムinこうち(中国・四国地区) |
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『伊予市唐川・びわの里をゆく』<5分53秒>杉本 雅(南海放送) |
『どうする子どもの性被害』<5分56秒>中川 理恵(西日本放送)☆丹羽賞 |
『どう実現? 子ども主体の学び』<5分54秒>髙橋 弦(NHK広島放送局) |
愛知・岐阜・三重制作者フォーラム in なごや(愛知・岐阜・三重地区) |
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『ニュースOne 名駅西の人情市場 最後の日』<11分05秒>葛西 友久(東海テレビ放送) |
『Station! 奇抜な発想 新たな創作 彫刻家 天野裕夫』<9分43秒>杉山 実(岐阜放送)☆依田賞 |
『土曜バラエティ むしTV』<12分32秒>湯崎 加梨(中京テレビ放送) |
九州放送映像祭&制作者フォーラムinふくおか(九州・沖縄地区) |
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『いつでも開いてた 宮城商店』<5分>祝 三志郎(沖縄テレビ放送)☆土屋賞 |
『伝統を「復活」させたい ~故郷の思いを甘木絞りに込めて~』<5分>両角 竜太郎(RKB毎日放送)☆中村賞 |
『時の人 尾畠さんが今 思うこと』<5分>白井 信幸(テレビ大分) |
トークセッション
第2部は「テレビはもうすべてをやり尽くしたのか?」をテーマにゲストの土屋敏男さん(日本テレビ 日テレラボ シニアクリエイター)、依田恵美子さん(名古屋テレビ放送 報道局 記者)、中村直文さん(NHK報道局チーフプロデューサー/NHKスペシャル統括)を迎え、コーディネーター・丹羽美之さん(東京大学 准教授)の進行でトークセッションが行われました。
丹羽さんは第1部で上映されたミニ番組全体を通して、テーマがどこか似通っていることに注目しました。番組のテーマが「商店」だったり、なくなってしまうものの「郷愁」だったり。「ミニ番組は普段のニュースの中でよく目にする機会がある。おろそかにしてはならない」と語り、「個々の番組は大変よくできている」と評価しつつ、この状況を打破するためにはどうしたらよいかという疑問を"新しいテレビ"を生み出してきた3人の制作者に投げかけました。
土屋さんは『電波少年シリーズ』などを担当。予定調和だったテレビの手法を否定し、今でこそ当たり前な“アポなし取材”で好評を博しました。「当時は数字の取れないテレビマンだった」。上司から「『三カ月なんでもいいからやれ』と言われ、好きなことをやってやろう」と始めた企画だったことを明かしました。その初回の放送では、「『こんなのテレビじゃない』とまで言われた」と述懐。発想の原点について、ワイドショー制作時代の米大統領の明治神宮訪問取材中、目の前に引かれた線に疑問を感じ、「5cm出た。怒られない。10cm出た。怒られない。30cm出たら『何やってんだっ!』と怒られた。その画が異常に面白かった。怒られるテレビって面白いんじゃないか。それから怒られそうな所へ行ってアポなし取材をすることになった」と当時を振り返りました。
依田さんは『防衛フェリー~民間船と戦争~』で数々の賞を受賞。これまでの戦争ドキュメンタリーの多くは、過去の戦争の悲惨さを訴えるものが多かったのに対し、民間会社のフェリーが自衛隊や民間人を巻き込む形で使用されていることに警鐘を鳴らし、戦争が静かに近付きつつある空気感を見事に描き出しました。この作品が生まれた背景には、ドキュメンタリー激戦区と言われる東海地方のライバル局に対し、「我々は本当に隙間産業。『防衛ってキー局でもあまりやっていないよね。他にはない視点でやってみたらどうだろう』という興味でスタートした」と語り、丹羽さんが「自衛隊の取材は難しくないんですか?」と尋ねると、「取材許可を頂くのもキー局なら警戒されがち。でも、地方局で女性ということが強みになったかも。自衛隊の取材は基本的に線が引かれている。『ここから出ないで』というように。フェリーに戦車を積むシーンでも『船には近づかないように』と言われたが、『もうちょっと、もうちょっと(笑)』と行くうちにフェリーの上まで行けた」と答えました。
中村さんはNHKスペシャル『メルトダウン』『未解決事件』等を担当。映像の見せ方についての話題に。『メルトダウン』の取材では、放射線量の影響で中央制御室の中に入れないため、「内部のレバーの向きが右か左か、形もメーカーさんに一個一個取材して映像を作り上げていった」ことを明かしました。「2~3年後に線量が落ちて、現場に入った記者から『いやあ、そっくりでした』という答えが返ってきた」とのこと。一方、『未解決事件』では獄中の男とのやり取りはドラマ仕立てを前面に押し出し、「事実に忠実ながらも役者同士が現場で起こす生に近いやり取りに瞬時に反応できる“瞬発力”が必要だった」と語りました。
会場からは、「現場で起こっていることに反応できる“瞬発力”についてさらに詳しくご意見を伺いたい」と質問があり、ゲストはそれぞれ回答。土屋さんは、「カメラがないんだけど、回しとこうか迷って結局iPhoneで回してたらたまたまいいものが撮れちゃったり。頭の中で構成するものなんて大したことない」。依田さんは「台本通りに取材やコメントを撮ってこようとする若い記者の方もいるが、できるだけ現場に台本は持ち込まないようにしている」。中村さんは「自分たちが想定しないことに反応できるかどうか、ラッキーと思えるかどうかが大事」。最後に丹羽さんは「頭で考えていたことを現実にこじつけようとするから苦しくなる。現場の流れに身を任せてもいいのでは」とまとめました。
フォーラムの総括として丹羽さんは「まだ誰もやっていないようなことは道端に転がっているはず。それを探す努力や熱量、気づく感受性を磨いていってほしい」と話し、会場で生まれた熱気はそのまま懇親会へと引き継がれていきました。
ゲスト プロフィール
土屋 敏男(つちや・としお) 日本テレビ 日テレラボ シニアクリエイター
1956年9月30日静岡県静岡市生まれ(62歳)。
1979年3月一橋大学社会学部卒。同年4月日本テレビ放送網入社。「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」などバラエティ番組を演出。「電波少年」シリーズではTプロデューサー・T部長として出演し話題になる。2017年萩本欽一のドキュメンタリー映画「We Love Television?」を初監督。一般社団法人1964TOKYO VR代表理事。東京大学情報学環教育部非常勤講師。
中村 直文(なかむら・なおふみ) NHK報道局チーフプロデューサー(NHKスペシャル統括)
熊本県出身。1994年NHK入局、「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」など報道・ドキュメンタリー番組を担当。Nスペ「マリナ アフガニスタン・少女の悲しみを撮る」(イタリア賞共和国大統領賞他)、「38分間 巨大津波・いのちの記録」(放送文化基金賞本賞他)、「メルトダウン」(文化庁芸術祭大賞他)、「沖縄戦 全記録」(新聞協会賞)。大型シリーズ「未解決事件」、「ロストフの14秒」などスポーツドキュメントも制作。
依田 恵美子(よだ・えみこ) 名古屋テレビ放送 報道局 記者
映像制作会社を経て2013年名古屋テレビ映像入社。夕方のニュース情報番組『UP!』を担当する傍ら、自衛隊や戦争関連企画に取り組む。一連の報道がギャラクシー賞報道活動部門大賞を受賞したほか、「防衛フェリー~民間船と戦争」が2017年度文化庁芸術祭大賞、放送文化基金賞優秀賞などを受賞。「葬られた危機~イラク日報問題の原点~」が2018年民間放送連盟賞テレビ報道最優秀賞とテレビ準グランプリ受賞。「行ってみれば戦場~葬られたミサイル攻撃~」が2018年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門で優秀賞受賞。
丹羽 美之(にわ・よしゆき) 東京大学准教授
1974年生まれ。専門はメディア研究、ジャーナリズム研究、ポピュラー文化研究。放送文化基金賞(テレビドキュメンタリー部門)専門委員、文化庁芸術祭(テレビドラマ部門)審査委員、ギャラクシー賞報道活動部門委員長などを務める。主な著書に「記録映画アーカイブ3 戦後史の切断面」(共編、東京大学出版会)、「テレビ・ドキュメンタリーを創った人々」(共著、NHK出版)、「メディアが震えた テレビ・ラジオと東日本大震災」(共編、東京大学出版会)などがある。