全国制作者フォーラム2024を開催しました
- 日時:2024年2月17日(土)
- 会場:如水会館 「スターホール」
- 主催:放送文化基金
2023年の秋に3地区で開催した制作者フォーラムでのミニ番組コンテスト入賞者を招き、現在活躍している3人のテレビ番組制作者をゲストに、丹羽美之さん(東京大学教授)をコーディネーターに迎え、全国から制作者や放送関係者約80名が集まり、熱いトーク、意見交換が行われました。
<司会> 平井 侑貴 (ひらい ゆうき)
大分朝日放送 アナウンサー
制作者フォーラム3地区のミニ番組優秀作品上映と意見交換
各地区で行われたミニ番組コンテストで優秀作品に選ばれた9番組を上映し、すべての作品についてゲストに講評をもらい、会場の参加者を交えて意見交換を行いました。また、上映された番組の中から3名のゲストとコーディネーターに気に入った番組を選んでいただき、懇親会で発表、表彰しました。
ミニ番組優秀作品(上映順)
愛知・岐阜・三重制作者フォーラムinなごや | |
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チャント!「来月50歳 名駅ナナちゃん人形にお母さんがいた!? 親マネキン大捜索」 | 瀧澤 菜緒(CBCテレビ) |
まるっと!「あのとき何食べた ~お父さんのLOVEが詰まったピカロネス~」 | 熊井 恵(NHK名古屋放送局) |
Mieライブ 「受刑者と社会を結ぶ くみひも」 | 伊佐治 好音(三重テレビ放送)☆丹羽賞 |
北日本制作者フォーラムinやまがた | |
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どさんこワイド179 「ボクの耳はどうして小さいの?」 | 宇佐美 瑠衣(札幌テレビ放送)☆山下賞 |
ウィークエンド東北 「震災12年 被ばくした牛と生きる」 | 藤澤 一樹(NHK福島放送局) |
おばんですいわて 『誰かのために~「がんばれ」掲げたあの日から~』 | 松原 一裕(NHK盛岡放送局) ☆金川賞 |
九州放送映像祭&制作者フォーラムinふくおか | |
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タダイマ!「ブラックモンブラン“宇宙”に行く」 | 浅上 旺太郎、阿部 裕司(RKB毎日放送) |
ナマ・イキVOICE 「それぞれの旅立ち」 | 宇木 千紗(鹿児島テレビ放送) |
くまパワ! 「生きるために声を失う 25歳 最後に伝えたいこと」 | 吉村 真紀(熊本朝日放送) ☆持丸賞 |
トークセッション
ミニ番組の上映と意見交換の後、事前に参加者から集められた質問をもとにトークセッションが行われました。ゲストには、金川雄策さん(Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリー チーフ・プロデューサー)、持丸彰子さん(NHK大阪放送局ディレクター)、山下晴海さん(RSK山陽放送 報道制作局長)を迎え、コーディネーターとして丹羽美之さん(東京大学教授)が進行役を務めました。
調査報道でタブーに切り込む番組、ドキュメンタリーに力を入れるローカル放送局、制作支援プログラムを立ち上げるネット企業、メディアを取り巻く環境が大きく変わる中で、いま制作者たちの新たな挑戦がはじまっています。テレビには何ができるのか。それぞれの最前線で活躍する3人のゲストとともに語り合いました。
“イメージはダメージ”
ドキュメンタリーを主戦場にする3名のゲストに対し、テーマの見つけ方について質問があり、それぞれ回答しました。
持丸さんは『長すぎた入院 精神医療・知られざる実態』(2018年)、『ドキュメント 精神科病院×新型コロナ』(2021年)を制作した経験から「テーマがかけ合わさることで番組になる」と回想しました。「私は障がいがある方々やマイノリティに属してしまう人々を取材することが多いのですが、地震や原発事故が発生したり、新型コロナウィルスがまん延したりすると、その方々はより困難な状況に陥ってしまいます。当事者が今、直面している課題に目を向けるようにしています」と語りました。
山下さんは「地方は社会問題の縮図のような場所。継続して取材を進めると、『老々介護』で取材をした方から『村に一軒しかないスーパーがなくなって困っている』という話を伺うことがあります。すると今度は『買い物難民』という問題が見えてくる」と語り、地域の今を取材する重要性を訴えました。また、若手時代に先輩カメラマンから「取材現場に入るとき、先入観を持たず、今起きていることに目を向けることが大切だ」と教わったといい、「イメージはダメージにつながる」とテーマを自ら限定しないようアドバイスを送りました。
金川さんは、Yahoo!ニュース エキスパートで短編ドキュメンタリーの制作を支援する立場から「なぜ今、そのテーマを扱うのか。取材対象者を通して何を伝えたいのか。作り手と整理しながら制作を進めていきます」と語り、「まずは短い尺でも作ってみると新たな人間関係が広がったり、取材対象者との信頼関係が生まれたりする。後々、映画やテレビ番組になったこともあります」と明かしました。実際に、『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』(2022年、第78回毎日映画コンクール受賞)も当初10分間の映像だったことを例に挙げました。
意図が明確な映像を
個別の質問についてもそれぞれ回答しました。
持丸さんには、精神科病院という特殊な環境では、普段の取材と何か違う点があるか質問がありました。自身が制作に関わった『ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~』(2023年)について触れ、「病院内で働く人々や内部に潜入できた方々の安全を確実に担保できなければ放送できない」と、情報提供者がリスクにさらされる点を改めて強調しました。
民放のドキュメンタリー枠が深夜帯に多い中、山下さんは2012年から報道系ドキュメンタリー『メッセージ』の放送をゴールデンタイムで開始しました。番組作りで変化したことを問われ、「最後まで番組を見てもらうために、視聴者を惹きつける、強い“画”から並べていく構成に変えました」と回答。また、制作時に心がけていることについて「尺が3分でも、10分でも、1時間でも伝えたいことを1つに絞ることが大切。1時間の枠があると、いろいろな素材で肉付けしていきたくなるが、核心となるテーマをきっちり伝えることに重点を置いている」と語りました。
一方、金川さんは配信での作り方の特徴について「配信では、“ながら視聴”ができるテレビより視聴する意思がある場合が多いので、最後まで見てくれる可能性が高い。ただ、メッセージの通知が来て動画から離れてしまうこともある。ノーナレーションにして、映像により没入感を生むようにしている」と指摘。さらに、最近ではiPhoneやハンディカムなどでも撮影でき、映像表現に迷うとの質問については、「どのカメラを使用してもいいと思うが、何が狙いで、なぜそのカメラを選択するのかまで考えてほしい」とコメントしました。
社会に一石を投じ続けて
動画配信サービスが普及する中で、昨今押され気味のテレビ業界。最後に、テレビの強みや今後求められることについて語り合いました。
持丸さんは「テレビには、社会をいい方向へと動かせる力がまだまだ残っていると思います。私自身、起きている事象に対して普段から疑う姿勢を持ち続け、これからも情報の正確性を担保しつづけていければ」と抱負も交えて語りました。
山下さんは「一度に多くの人へ情報を届けられるという利点が、装置としてのテレビにはある。信頼に足る情報を放送していくことが今後も求められていますし、それができる人材が放送界に残っていることは強みだと思います」と述べました。
金川さんは「配信コンテンツで収益化していくことは、まだまだ難しいと日々感じている。しかし、テレビはすでにビジネスモデルが確立されています。それに全国に放送できる装置としての強みもある。そしてなにより、最大の財産は人材です。制作者のみなさんがどういう心持ちで、どういう社会がいいものと考えているのか、下向きにならず、我々に見せ続けてほしい」とエールを送りました。
進行を務めた丹羽さんは、今回の議論を踏まえ、「ドキュメンタリーには、まだまだ力があると思います。昨年、旧ジャニーズ事務所の性加害問題を明らかにしたのは、BBCが制作した、たった1本のドキュメンタリーでした。それがきっかけで、テレビの在り方が問われ、社会が変わっていきました。制作者のみなさんには、これからも社会に一石を投じる番組を作り続けてほしい」と締めくくりました。
ゲスト・コーディネーター プロフィール
金川 雄策 (かながわ ゆうさく) Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリー チーフ・プロデューサー
2004年より全国紙の映像報道記者として、東日本大震災、パリ同時多発テロ事件など国内外の現場で取材。より深く伝えられるストーリーや映像の可能性を信じて、NYでドキュメンタリーフィルムメイキングを学ぶ。2017年ヤフー株式会社に入社し、クリエイターズプログラムやDOCS for SDGs の立ち上げに従事。特定非営利活動法人Tokyo Docs 理事、日本民間放送連盟賞中央審査員、ATP賞総務大臣賞審査員他。
持丸 彰子 (もちまる あきこ) NHK大阪放送局 ディレクター
2008年にテレビ朝日入社後、記者・ディレクターとしてニュース番組制作。2018年にNHK入局。主にEテレ「ハートネットTV」などで福祉分野をテーマにした番組の制作に携わる。2020年のコロナ禍以降、精神医療をテーマに取材。これまで制作した番組は「ETV特集『ドキュメント 精神科病院×新型コロナ』」、「ETV特集『ルポ 死亡退院 ~精神医療 闇の実態~』」など。現在は大阪にて「バリバラ」を制作。
山下 晴海 (やました はるみ) RSK山陽放送 報道制作局長
1967年岡山市生まれ。1991年RSK山陽放送に入社。報道部記者。2001年TBSカイロ支局長としてイラク戦争など中東取材を経験。2012年ドキュメンタリー番組「メッセージ」のディレクターとしてハンセン病をテーマにした番組などを制作。「メッセージ」は、2015年度ギャラクシー賞大賞(報道活動部門)、2021年度放送文化基金賞(個人・グループ部門)、2023年度日本記者クラブ特別賞などを受賞。
丹羽 美之 (にわ よしゆき) 東京大学 教授
1974年生まれ。専門はメディア研究、ジャーナリズム研究、ポピュラー文化研究。主な著書に『日本のテレビ・ドキュメンタリー』、『NNNドキュメント・クロニクル:1970-2019』、『記録映画アーカイブ・シリーズ(全3巻)』(いずれも東京大学出版会)などがある。『GALAC』編集長、ギャラクシー賞テレビ部門委員長などを経て、現在、放送文化基金賞審査委員などを務める。