HBF 公益財団法人 放送文化基金

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助成

研究報告会 2013

放送文化基金は、これまでに助成したプロジェクトの成果を発表する場として、
助成金贈呈式とあわせて研究報告会を開催しています。

 放送文化基金の平成24年度の助成対象が決まり2013(平成25)年3月8日、東京・平河町の海運クラブで助成金贈呈式が開催されました。贈呈式は、第1部研究報告会、第2部助成目録贈呈、そして懇親会の3部構成で行なわれました。
 第1部の研究報告では、技術開発部門から、慶應義塾大学文学部 准教授 川畑秀明さんが、『脳は美をどう感じるか~アートの脳科学』と題して、脳がどのように美を感じるのかを、美や芸術に対して応答する脳の働きや構造を実験結果とともに発表。メディアや情報端末の普及により、作品を自由に持ち運び、様々な知識を得ることができ、芸術作品に接することの在り方自体が変化している現代社会での実用的な側面として美を感じることや芸術に接することがどのようなことに役立つのかという問題についても研究成果を報告しました。
 人文社会・文化部門からは、GCN(Gender and Communication Network)共同代表 谷岡理香さん(東海大学文学部 准教授)が、『「企業ジャーナリスト」のライフコース』の研究成果を報告。複雑・多様化した現代社会において報道に対するニーズも多岐にわたるが、果たして報道の担い手である人材に多様性は見られるだろうか―――、報告会では、30名を対象にロングインタビューを行ったという調査の概要、そして分析の結果、明らかになってきた「企業ジャーナリスト」のライフコースについて、ジェンダー差、世代差、キー局と地方局の差異等を中心に報告しました。

報告① 技術開発部門(平成22年度助成)

『脳は美をどう感じるか~アートの脳科学』
慶應義塾大学文学部 准教授 川畑 秀明


 美とは何か、芸術とは何か、これまで歴史に名を残してきた芸術家がなぜ偉大なのか、創造力の源泉はどこにあるのか──これらの美や芸術に関する問題について、近年では脳や心の学問からの接近が試みられている。本報告では報告者の近年の研究をもとに、3つの視点から、美や芸術と脳の関係についてまとめた。
 まず、芸術とは脳にとって何であろうか。脳は作品を理解と解釈によって鑑賞する。このとき、脳は目の前にある作品の意味を自己との関係の中で捉え、直感的に理解が困難な場合や現実とは異なるものに遭遇したときに問題解決をし、想像力を働かせて足りないものを補おうとする働きがある。その問題解決に対する満足が脳にとっての芸術の評価となる。次に、脳は美をどのように感じるのであろうか。美を感じる脳の仕組みは「報酬系」とよばれるものであり、美に限らず、私たちが報酬を得るときや報酬への期待などに反応するものである。美や魅力、欲求など、志向性のある快に対する脳の仕組みの存在こそが、美の神経回路の正体であり、脳が美を欲する理由でもある。
 さらに、芸術や美はどのように役立つのであろうか。現代社会では、多様なメディアや情報端末の普及により、作品を自由に持ち運び、様々な知識を得ることができ、芸術作品に接することの在り方自体が変化している。報告者の研究では、美術コンテンツの鑑賞における「関わりかた」によって、ストレスや気分などの精神的健康への影響を検討している。作品への理解を文章として書き留めたり、作品の模写をしながら鑑賞したりするときの方が、漠然と作品を見るときよりも不安や不機嫌さを静める効果があることを明らかにした。
 よく「芸術とはコミュニケーションである」という。今後は、鑑賞者側からのコミュニケーションの在り方がどのように作品の見方を変化させるかについて検討し、表現者と鑑賞者の双方向コミュニケーションの可能性を探っていきたい。

・平成22年度 助成
「家庭用テレビを用いたバーチャル美術館の効用とその心理脳科学的評価」

報告② 人文社会・文化部門(平成22年度助成)

「企業ジャーナリストのライフコース」
GCN(Gender and Communication Network)共同代表・東海大学准教授 谷岡 理香

□問題意識
 2009年GCNは、国際女性メディア財団(ワシントンD.C.)主催の「メディアにおける女性の地位国際調査」(世界約60か国参加)に日本担当として調査にあたった。どのメディア企業においても人事責任者は、男女の待遇は平等であると答えている。それにも関わらず日本のマスメディア組織では女性の割合は2割止まりであり、女性の参画率は世界最下位クラスである。複雑多様化した現代社会において、報道の人材にも多様性が求められているのではないか。

□調査内容
キー・ローカル局を合わせ13放送局の50代を中心とした管理職(男性11名、女性10名)、比較対象として30代9名(男性5名、女性4名)に、生育環境、就職活動、ジャーナリスト教育、企業内キャリアパス、生活圏等について各2時間のインタビューを行った。

□調査から得られた主な知見
日本の企業ジャーナリスト達は、警察担当の記者クラブを振り出しに、OJT(On the Job Training)による地道な取材活動を経て一人前の記者になることが「記者の王道」と認識している。男性管理職は、「24時間体制」で働いており、生活圏の体験が少なく職場以外の視点を持ちにくいが、その事に対する問題意識は感じられない。男女管理職共に、地域での活動やNPO等に関わる余裕はない。男性管理職の多くが、育児休暇をとる女性が増えると人材管理が大変である為に、現状の体制では女性記者が増えることを望んでいない。30代女性は全員、諸制度を利用して仕事と育児を両立している。30代男性は、50代に比べると育児参加等の意識と行動変化があるものの、仕事中心のライフスタイルを変えられるかというジレンマを抱えている。

□展望
報告会では、放送局の人事担当者や新聞社のOBもおり、従来の画一的な働き方だけでは、人材の多様性の確保も社会の多様性にも対応しきれないという声を頂いた。今後もあらゆる場面で報告・提言を行い、多様な放送文化の担い手を支援していきたいと考えている。なお、調査結果を更に詳細に分析し、日本のテレビ報道を牽引している人々 の意識、キャリア形成、日本のジャーナリズムの今後への展望、ローカル局の特色、男女差、世代差などを加え『テレビ報道記者たちのライフコース(仮題)』(大月書店)を、今秋、出版する予定である。

・平成22年度 助成
「日本の放送分野での報道を牽引している人々のライフコース調査:人材の多様性と職能の関連」