設立40周年記念研究報告会(2014)
放送文化基金は、これまでに助成したプロジェクトの成果を発表する場として、
助成金贈呈式とあわせて研究報告会を開催しています。
放送文化基金の平成25年度の助成対象が決まり2014(平成26)年3月7日、東京・平河町の海運クラブで助成贈呈式が開催されました。
第1部の研究報告会は、設立40周年記念研究報告会「3.11とメディアのこれから ―震災、原発事故からの教訓―」と題して通常の研究報告会を拡大した形で開催し、放送関係者や研究者などおよそ100名が参加しました。 前半は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の後に当基金が助成した震災とメディアに関する調査・研究の中から3件のプロジェクトの成果報告を行いました。そして後半は、これらの報告を受ける形で、震災報道に携わった放送局の報道関係者を交えてパネルディスカッションを行い、浮かび上がった課題、教訓について議論を深めました。
プログラム
研究報告① 被災者は放送をどう受け止めたか
~岩手・新潟 アンケート調査より~
日本災害情報学会デジタル放送研究会 代表
前大妻女子大学教授 藤吉 洋一郎 氏
研究報告② 放送局は東日本大震災にどう向き合ったか
~岩手・宮城・福島全テレビ局インタビュー調査より~
「東日本大震災とメディア」研究会
法政大学社会学部教授 藤田 真文 氏
研究報告③ データにみる報道の地域間格差
~テレビ報道とWEBニュースの内容分析より~
災害報道グループ 代表
東京大学教授 都市基盤安全工学国際研究センター長 目黒 公郎 氏
パネルディスカッション[動画]
パネリスト:研究報告①②③の報告者
福島中央テレビ 取締役報道制作局長 佐藤 崇 氏
NHK 解説主幹 山﨑 登 氏
コーディネーター:東京大学大学院情報学環准教授 丹羽 美之 氏
↓「再生リスト」をクリックすると各動画の索引が表示されます。
研究報告会の概要
今回の研究報告会全体の監修およびパネルディスカッションのコーディネーターを務めた丹羽美之さんに、研究報告会の概要についてまとめていただきました。
東京大学大学院情報学環 准教授 丹羽 美之
東日本大震災から3年が経ち、私たちは震災報道をようやく冷静に振り返ることができるようになりつつある。テレビに何ができて、何ができなかったのか。できなかったとすれば、それはなぜなのか。放送文化基金設立40周年記念となる今回の研究報告会は、テレビ震災報道の意義や課題を改めて検証し、報道関係者も交えて今後の教訓を率直に語り合う絶好の機会となった。
前半の研究報告では、まず藤吉洋一郎氏(前大妻女子大学教授)が、「被災者は放送をどう受け止めたか」と題して、津波被災者(岩手)と原発事故広域避難者(新潟)へのアンケート調査の結果を報告した。震災・原発事故報道の問題点として「取材地域が偏っていて影響が出た」「原発事故に関する正確な情報がタイムリーに開示されなかった」などといった厳しい声が紹介された。
続く藤田真文氏(法政大学教授)の「放送局は東日本大震災にどう向き合ったか」という報告では、岩手・宮城・福島の全テレビ局に対するインタビュー調査の結果をもとに、ローカル局が各地域の災害報道で果たした役割や直面した課題が提示された。ローカル局が緊急時に地域の情報センターとして一定の役割を果たしたことが高く評価される一方、多くの局が事業継続の困難に直面したこと、福島では住民に向けた原発事故報道のあり方をめぐって「専門的知識の不足」「全国報道との温度差」など多くの課題を残したことが指摘された。
最後に、目黒公郎氏(東京大学教授)による「データにみる報道の地域間格差」では、デジタルアーカイブを用いた内容分析によって、テレビ報道の地域間格差の問題が明らかにされた。今回の震災は被災地が広範囲に広がったため、被災の規模が大きかったにもかかわらず、あまり報道されなかった地域があること、それらが義援金やボランティアの数にも影響したおそれがあることが指摘された。
後半のパネル・ディスカッションでは、報道関係者として山﨑登氏(NHK解説主幹)、佐藤崇氏(福島中央テレビ取締役報道制作局長)にも加わってもらい、前半の報告を受けて、以下の3つの論点を中心に討論を行った。 第1に、発災直後の大津波警報の伝え方および大規模地震に対する放送それ自体の脆弱性について。第2に、その後の被災地報道のあり方、特に報道の地域間格差について。第3に、原発事故報道に対して寄せられた厳しい批判について。山﨑氏、佐藤氏の発言からは、今回の震災報道で明らかになった課題を、今後の教訓として活かしていこうという使命感や強い思いが感じられた。
会場からは「各報告とも視点が確かで、新しい事実や提言もありよかった」「現場の人の生の声を記録にとどめ、必要とされている支援、研究を行う必要があると改めて考えた」といった声が寄せられた。今回の研究報告会が、東日本大震災の報道について報道関係者と研究者・市民がともに考え、被災地の復興のために、また今後の防災や減災のために、教訓として活かされることを心から願っている。
●研究報告会に参加して
災害時に役立つ放送をめざして
小玉 美意子(武蔵大学名誉教授)
放送と震災との実際的な関わりについて具体的な調査結果が報告され興味深かった。従来から放送に対しては批判があったが、ラジオ・テレビともに良く使われたこと、地元放送局の奮闘を再評価できたことは、ネットワークの連携と責任の自覚を促すうえでも良かった。
今後は、ニュース番組の取材方法と項目やことばの選択のあり方を根本的に見なおす必要がある。視聴者の要望は、地域特性・震災後の時間経過・個別の被災状況によって変わるが、これらの研究成果をもとにそれらを整理して「さすがはプロ。放送は災害時に役立つ」と素直に評価されるものになってほしい。
繰り返す反省、過去に学ばねば…
中村 信郎(前日本災害情報学会事務局長)
かつて放送文化基金が行った阪神・淡路大震災報道の調査、分析に関わった私は、東日本大震災報道に対する被災住民からの批判や指摘は、原発事故報道への不信を除けば、余り変わっていないと思った。それは、放送メディアが大規模災害を面で捉える工夫や、地元メディアの協力体制ができていないからだ。ただ、阪神のとき、避難所に張り出された「マスコミお断り」の張り紙がなかったのは救われる。
原発事故報道は難しい。国も東電も、いわゆる原子力ムラの学者も加害者。その人たちの発表(情報)に頼る以外になかった報道。1999年のJCO臨界事故で学んだはずだが。
放送発信者の相互連携に期待
箕浦 康子(お茶の水女子大学名誉教授)
聴きごたえのある研究報告会でした。受信者側の被災者の調査、発信者側の被災地の放送局の事情、放送されたテレビ報道の内容分析という異なる角度からの研究報告の組み合わせは、問題点を浮き彫りにしていました。後半の当時放送に携わった方々の話は、「事実を伝え、かつ、煽らない報道」とは何かを考えさせられました。「どのタイミングでどのような人にどのような情報を伝えたらよいのかに関するイマジネーションが災害報道には必要」という発言が印象的で、大中小さまざまな放送発信者が相互に連携することでこれが可能になればと願いました。
40周年記念研究報告会の報告書を刊行
放送文化基金設立40周年記念研究報告会「3.11とメディアのこれから -震災、原発事故からの教訓-」の報告書を刊行いたしました。入手をご希望の方は、送付先の郵便番号、住所、(会社名)を明記の上、事務局までご連絡下さい。(お申し込みは原則お一人1冊まで、報告書は無料です。)
E-mail:お問い合わせフォーム
TEL:03-3464-3131 FAX:03-3770-7239