HBF 公益財団法人 放送文化基金

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助成

研究報告会 2015

放送文化基金は、これまでに助成したプロジェクトの成果を発表する場として、
助成金贈呈式とあわせて研究報告会を開催しています。

 放送文化基金の平成26年度の助成対象が決まり2015(平成27)年3月6日、東京・平河町のホテルルポール麹町で助成金贈呈式が開催されました。贈呈式は、第1部研究報告会、第2部助成金目録贈呈、そして懇親会の3部構成で行なわれました。
 第1 部の研究報告会2015は、技術開発部門より工学院大学工学部教授の前田幹夫さんから『放送素材信号の水中光伝送に関する技術開発』について、人文社会・文化部門より大阪大学大学院教授の鈴木秀美さんから、『ドイツの新しい受信料制度』についての報告がありました。報告会には約80名が参加し、質疑応答の時間にも活発な意見交換が行われました。

報告① 技術開発部門(平成24年度、25年度助成)

『放送素材信号の水中光伝送に関する技術開発』
工学院大学工学部 教授 前田 幹夫

研究の目的と背景
 本研究の目的は潜水艇など海中から映像を生放送することである。海中では電波は減衰が大きく、音波しか伝送できない。光は電波と比べると減衰が小さいが、浅い水深では透明度が低く、海上との長距離伝送は困難である。現在、深海で撮影した映像は記録装置に保存して持ち帰る必要があり、浮上して再生するまでに時間を要するという課題がある。海上と潜水艇とを光ファイバで結ぶことも考えられるが、潜水艇の行動を妨げる恐れがある。そこで、潜水艇の近くに中継器を置き、潜水艇から中継器までの短い距離を損失が最も小さな青色の可視光線で伝送し、中継器から海上までの長い距離を光ファイバによりリレー方式で伝送するシステムを提案する。

提案システムの特徴
 提案システムでは潜水艇と中継装置が互いに動いても光ビームを当て続けるための制御技術が重要である。また、暗い海の中で、中継装置を見つけやすくする工夫も重要である。そこで、中継器は光がどこから来ても受信できるように球形とし、多くの受光器を配置するとともに、表面を再帰性反射材で覆うことで、中継器を容易に発見できるようにしている。再帰性反射材の反射光は光源の方向に戻るので、夜間工事の作業員のジャケットや道路標識等に利用されている。再帰性反射材の反射光は光源の周りの狭い範囲だけに集まる性質があるので、光送信器の四隅から位置ずれ検出用の正弦波信号を送り、それぞれすぐ近くの受光器で得られた正弦波の強度を比較することで、ずれの向きと程度を知ることができる。

基礎実験
 約2000灯の青色LEDから成る光送信器を試作し、10m前方での放射特性と中継器からの反射電力を測定し、理論値とほぼ一致することを確認した。また、球形の中継器に配置する受光器のうち、光の到来方向に正対していない受光器の効率が悪いため、光の到来方向に受光面を機械的に向ける光モジュールを試作し、受信品質を改善できることを確認した。

プロフィール
工学院大学工学部電気システム工学科教授。1957年横浜生まれ。北海道大学大学院修了後、NHKに入局。番組制作部門を経て、1984年に放送技術研究所に異動し、以来光ファイバやケーブルテレビなど有線による映像信号の伝送技術の研究に従事。2012年より現職。現在、電子回路、光応用技術の講義や実験を担当するとともに、放送文化基金の助成を受けて映像信号の水中光伝送に関する技術開発など有線と無線の融合領域の研究に取組んでいる。著書に「光・無線技術の基礎と応用」。

報告② 人文社会・文化部門(平成23年度助成)

『ドイツの新しい受信料制度 』
  慶應義塾大学 教授(2015年4月~) 鈴木 秀美
 

  ドイツでは日本と同じく放送受信機(テレビやラジオ)を持っている人に放送受信料を支払う義務が課せられていたが、パソコンやスマートフォンなど放送を受信できる媒体が多様化する中、受信機を持っているか否かと無関係に、すべての住居と事業所から「放送負担金」を徴収する仕組みが201311日に導入された。放送負担金は、ドイツ公共放送連盟(ARD)を構成する9つの放送協会、ZDF、ドイチュラントラジオの財源となる。放送負担金の徴収は、「ARDZDF、ドイチュラントラジオ負担金サービス」という組織が行い、いったん徴収された放送負担金が各放送協会に配分される。

 新制度では、住居ごとに放送負担金を支払う義務がある。ひとつの住居に何人住んでいるかとは無関係に、住居1件につき月額17.98ユーロの放送負担金を支払わなければならない。この金額は、201212月までのテレビ受信機を所有する視聴者が支払っていた放送受信料と同額であるため、個人からの新制度に対する批判はそれほど大きくはない。これに対し、従業員数と所有している車の台数に応じて放送負担金を支払う義務を負う事業所の一部からは厳しい批判の声が出て、不平等であるとか営業の自由を侵害するとして制度自体の合憲性が裁判所で争われている。問題とされているのは、同じ従業員数でも、本社1ヵ所のみの事業所と、本社に加えて多数の支社・支店がある事業所(例えばチェーン店)では、後者のほうが多額の放送負担金を支払う義務を負うことや、多数の車両を保有するレンタカー会社について特別の規定が設けられていないことである。

 日本の受信料制度のあり方を考えるためにも、ドイツの放送負担金制度が社会に受け入れられ、憲法とEU法に適ったものとして定着していくプロセスを今後も見守っていきたいと思う。

プロフィール
大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2015年4月より慶応義塾大学教授。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。北陸大学、広島大学、日本大学を経て2004年より現職。著書に、『放送の自由』(信山社・2000年)、『放送法を読みとく』(共編著:商事法務・2009年)、『インターネットと法[第4版]』(共編著:有斐閣、2010年)、『よくわかるメディア法』(共編著:ミネルヴァ書房・2011年)、『表現の自由 I 状況へ』・『表現の自由 Ⅱ 状況から』(共編著:尚学社、2011年)。現在、独立行政法人日本原子力研究開発機構「情報公開委員会」委員、毎日新聞「開かれた新聞委員会」委員、関西テレビ「オンブズカンテレ委員会」委員を務める。