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事務局からのお知らせ

「関西民放NHK連携プロジェクト」の活動報告

阪神・淡路大震災から30年。「関西民放NHK連携プロジェクト」が発足

 1995年(平成7)1月17日(火)5時46分、淡路島北部を震源地とする「震度7」の地震が発生した。死者6,434名、住家被害63万棟の被害を出した大震災から2025年で30年となる。
 関西の民放・NHK7局が垣根を越えて、未来につなげるプロジェクト「関西民放NHK連携プロジェクト」が2024年4月に立ち上がった。
 放送文化基金は、「放送文化基金50周年事業」と位置づけ協賛した。


 2023年時点で、神戸では震災を知らない1995 年以降生まれの人口の割合は25%を超えた。テレビや新聞などメディアの現場でも、震災報道の最前線にいたアナウンサー、ディレクター、記者は第一線を退くタイミングを迎え、「あの日」を知らない世代が阪神・淡路大震災を伝え、来るべき災害に備える時代となった。
 プロジェクトでは、若手の記者、ディレクター、カメラマンによる局の垣根を超えた”若手ネットワーク“を構築し、若い世代の新たな視点から震災を伝えるための勉強会を5回開催。2025年3月2日(日)には“テレビメディアの防災発信力の向上”の視点から「シンポジウム・番組上映会」を神戸の〝人と防災未来センター”で開催する。
 勉強会では、大震災を経験した先輩たちからの話をきいたり、ドキュメンタリー映像作家、研究者を招き、これまでの災害報道に加えて「震災30年をどう伝えるか」をテーマに話し合ったりと、活発な意見交換を重ねてきた。

  以下はプロジェクト事務局からの報告です。


 「聞く、学ぶから自分たちで動くへ」 関西民放NHK連携プロジェクト事務局

 阪神・淡路大震災から30年。震災の経験を継承し、一人でも多くの命を守るための災害報道を目指して立ち上がったNHK大阪放送局と関西の民放6局による連携プロジェクト。
 大きな柱が「若手」である。放送局の連携というと名古屋で先駆的に始まった「ヘリ映像の共有」のような局同士の“連携の仕組み”をイメージすることも多いが関西での取り組みの大きな成果は若手が繋がる場づくりであり、その中での若手一人ひとりの成長や気づきであった。その具体的な取り組みが7局合同若手勉強会である。

 人間関係を深める"場”に
 2024年4月、第一回の勉強会はNHKのアナウンサー,民放の記者、カメラマンを講師に迎え、「先輩に聞く」を実施した。当初は各局の災害担当を中心とした勉強会を想定していたが、リアルで45人、オンラインで75人が参加、新人もふくめて幅広く若手たちが集まった。もちろん震災30年や南海トラフ巨大地震もあり、災害報道、震災報道への関心が高まっていたこともあるが、局や組織の壁を打ち破りテレビに関わる仲間として語り合える場を求めていることを実感した。それはマスゴミとまで呼ばれ、コンプライアンスという言葉に縛られる中で、若手たちが直面している“閉塞感”の裏返しであり、それを乗り越えていきたいという強いメッセージだと受け止めた。そして勉強会は、そんな彼らをエンパワーメントする“場”となったと思う。ある若手ディレクターは「組織に余裕がなく、コロナ禍や働き方の変化でなくなっていった多様な人間関係を深める機会を得られたのがいちばん良かった」と語ってくれた。

 "30年前の経験”自分だったらどうする?ークロスロード研修
 先輩の話を聞いた若手から出てきたのが、自分たちで考えたい、話し合いたいという声だった。聞く、学ぶから自分たちで動くへ、プロジェクトが目指した若手主体は間違いではなかった。第二回の勉強会のテーマは、南海トラフ巨大地震を想定して「命を守るための災害報道」とは何か。関西大学社会安全学部の近藤誠司教授を講師に迎え、テレビメディアを取り巻く厳しい状況の中で、今回の連携プロジェクトのような、壁を乗り越える、突破する「ブレークスルー」が必要なことを熱く語ってもらった。そして7月、いよいよみんなで議論する第3回の勉強会、名付けて「ディスカッションDEEP」を実施した。
 緊急報道における映像の共有、災害情報を伝える共通のポータルサイトなどに加え、こうした連携がなぜ必要なのか、その意味まで深めるグループもあった。メディアスクラムや被災者を傷つける報道などメディアへ厳しい視線が注がれる中で、こうした取り組みがメディアの信頼を取り戻すことにつながる、そして「信頼」こそが「いのちを守る災害報道」につながるという考えだ。災害報道について、学ぶから一歩、踏み込んでテレビメディアのあり方まで深めて考える、勉強会という”場“が生み出した若手たちの”気づき“である。
 そして去年12月、締めくくりとして実施したのが「震災30年クロスロード研修」である。

 30年前、これまで経験したことのない巨大災害の現場に飛び込んだ先輩たちは、何を感じ、どう行動したのか?判断に悩む場面でどういう選択をするのか、YES・NOの二者択一の設問を用意し、なぜ選んだかをグループワークで議論する「クロスロード」という防災ゲームを活用した研修を企画した。設問は、NHK、民放各社の記者、カメラマン、ディレクター、アナウンサーあわせて14人の先輩たちの30時間におよぶ聞き取りをもとに考えた。「焼け跡で目の前に鍋を置いて、うずくまっている女性がいます。近づいて話しを聞きますか?」「幼い子どもを抱えた女性が食べ物を分けて欲しいと言ってきました。渡しますか?」など、報道人として、人として、どう行動するのか、災害報道のあり方を問いかける設問が、当時の先輩たちの生々しい証言とともに若手に投げかけられた。第一回では先輩の話を聞くだけだった若手たち、これまでの勉強会を経て、2時間を超える熱い議論は非常に充実した内容となった。

 若手からのメッセージ
 最後にこれからの災害報道について率直な思いを語ってもらった。その言葉には勉強会を通じて、連携プロジェクトが目指してきたものが詰まっていた。初めて勉強会に参加した1年目のアナウンサー、「なんで撮るのか、撮って伝える意味があるのか、一つ一つの場面で、いろいろなことを考えて、慎重に丁寧にやっていかないといけないのが災害報道だということを今日の時間で学びました。」という気づき。
 毎回、参加した7年目のディレクター、「オールドメディアとかマスゴミって言われているが、ただ批判されるだけではなくて、私たちの側も思っていることも言って、そこを恐れて、止めるんじゃなくて、もう一歩いきたい」という決意。そして新人の時に東日本大震災を経験した15年目の記者が最後にこう宣言してくれた。
「被災されてる方の役に立つ放送が出来ているのかということは、もう一回、考え直さなければならない。やっぱり答えがないし、正解はないということだと思うので、それを理解して、悩みながら、もうやるしかない」
 阪神・淡路大震災から30年を機に立ち上がった連携プロジェクト。その中から生まれた若手からの「もう一歩いきたい」「悩みながらやるしかない」というメッセージは災害報道にとどまらずテレビメディアのこれからを切り拓いていく言葉だと思う。連携プロジェクトが今後、どう展開してゆくのか。これからも若手たちの可能性を信じ、ともに歩んでいきたい。

 阪神・淡路大震災30年関西民放NHK連携プロジェクトのホームページはこちら

(2025年1月17日)