もっと 制作者フォーラム in もりおか
レポート+寄稿
2020年10月30日(金)、プラザおでってにて、北日本制作者フォーラム実行委員会と放送文化基金が主催する「北日本制作者フォーラムinもりおか」が開催されました。 フォーラムには、東北6県と北海道にある全民放テレビ局とNHK、計31の放送局が協力し、制作者は各地からWEB会議上で会場と接続しました。
初めに行われたミニ番組コンテストでは、エントリーされた74作品の中から各地区の予選を通過した19作品が上映されました。
審査員の阿武野勝彦さん(東海テレビ放送プロデューサー)、各地区代表幹事7名、そして会場の参加者と上映された作品についてそれぞれ質疑応答が行われました。
引き続き、トークイベントが行われ、東海テレビ放送プロデューサーの阿武野勝彦さんは<どうしたら作り続けられるか・・・>をテーマに講演を行いました。東海テレビにアナウンサーとして入社した阿武野さんは、冒頭で制作者へと転身した経緯を話しました。そして、数々のドキュメンタリーを映画化してきた背景を「キー局にいたら考えていなかった。ローカル局にいたからこそ、より多くの人に見てもらいたかった」と明かしました。今回のテーマに関しては、「自分が伝えたいことを、ずっと自分で持ち続けることが大切だ」と語り、現在もニュース番組の制作にディレクターとして携わっている話をしました。
会場からの「ドキュメンタリーを作る上で、大切なことは何か」という質問には、「制作者自身の発見と驚き」と回答しました。話題になった『ヤクザと憲法』、『さよならテレビ』を例に挙げ、「自分自身の疑問を素直に描くこと」が制作の動機になったと語りました。
今回の「北日本制作者フォーラムinもりおか」は、新型コロナウイルスの影響により、他地区のフォーラムが相次いで中止となるなかで唯一開催されました。感染対策のため、WEB会議システムを導入し、会場にいる審査員と各局の制作者をつないで質疑応答を行うなど、万全の対応策が講じられました。
一足早い冬の風が換気により入り込み、外のような寒さの会場内でしたが、制作者同士の熱い討論は終日行われました。今回の開催は、コロナ禍でどのように開催するのかという一つのモデルを提示し、大変意義深いものとなりました。
ミニ番組コンテストで最優秀賞を受賞した林沙羅さん(NHK盛岡放送局)、審査員の阿武野勝彦さん(東海テレビ放送プロデューサー)、岩手世話人会幹事社の角掛勝志さん(IBC岩手放送)に、フォーラムの感想をお寄せいただきました。
NHK盛岡放送局 林沙羅さん
震災を取材するとはどういうことか。誰のために、何を伝えるのか。
埼玉で生まれ育った私は、初任地の岩手で震災を伝える立場にいることに常に抵抗がありました。大槌町を初めて訪れたときも、いまも、その不安を胸に抱えています。だからこそ、知っているふりも知らないふりもしないで、向き合いたいと取材を始めました。
このリポートでは、多くの町職員が亡くなった大槌町役場庁舎で何があったのか、町が震災記録誌にまとめる動きの中で、事実と向き合おうとするご遺族や職員の方々の思いが“初めて明かされる”瞬間を見つめようとしました。ですが、初めて語る、その内容以上に、それまでの8年半の沈黙を突きつけられました。本来なら言葉が語るはずのインタビューで、言葉のない時間を大切にしたのはその事実を伝える上で必要不可欠と感じたからです。
まだ多くの沈黙があること、語られないことの深さや大きさを、取材者として、一生忘れずにいたいと思います。
東海テレビ放送プロデューサー 阿武野勝彦さん
フォーラムを終えた次の日、盛岡の街をブラブラした。啄木が新婚時代を過ごした家は閑散としていたが、繁華街の映画館は、『鬼滅の刃』でごった返していた。私は思った。「そうだ。やればやれるのだ・・・」
全国各地のフォーラムが中止となる中で、北日本制作者フォーラムは独り気を吐いた。こんな折こそ若手を励まそうと東北・北海道の先輩たちが心を砕いたからだ。
ミニ番組コンテストのエントリーは19作品。コロナ以前と以後の作品が混在していたが、どれも力作だった。私には、コロナ以後の作品がひときわ輝いて見えたのだが、何より中央でみんなに観てもらう機会がないのがとても残念だと思った。
私たちは、地震であろうと、水害であろうと、コロナであろうと、放送をやめるわけにはいかない。急にして要な仕事だし、放送人はエッセンシャルワーカーだと胸を張って言いたい。絶やすことなくフォーラムを継続した心意気が、若手に乗り移れば、自ずと豊かな実りに繋がる・・・。土産にもらった銘酒「赤武」を片手に、爽やかな気持ちで満席の飛行機に乗り込んだ。
IBC岩手放送 メディア放送本部 編成局
テレビ制作部長 角掛勝志さん
1997年「みちのく映像祭」の名前で盛岡で始まった北日本制作者フォーラム。この時から数えて6回目となる盛岡での開催は、初めてインターネットを使ったリアルとWebの併用大会となりました。
コロナ禍の今年、中止も検討しましたが、若手制作者を応援しようというフォーラムの原点に立ち返り、今年の作品は今年評価しようと、急ごしらえではありますがなんとか開催にこぎつけました。すべてが初めての仕掛けでヒヤヒヤの運営でしたが、各地の制作者が自らの言葉でプレゼンを行う熱量はWebでもリアルでも変わらない。厳しい状況にあっても作り続けることの大切さがあると、学ばせていただきました。
開催へのヒントを与えていただいた公益財団法人放送文化基金様、ゲスト審査員東海テレビ放送阿武野勝彦様、そして急な発案にも関わらず若手のフォーラム参加にご理解を頂いた各局の皆様に御礼を申し上げます。次回は再びリアルな交流ができるような大会になればと願います。