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各地で行われた制作者フォーラムの模様を、参加者の声を交えて伝えます。

2023年3月9日

もっと  制作者フォーラム in あきた

レポート+寄稿

 東北6県と北海道にある全民放テレビ局とNHK、計31の放送局が協力し、2023年1月26日(木)、にぎわい交流館AUにて、「北日本制作者フォーラムinあきた」が開催されました。フォーラムは、リアル開催を予定していましたが、最強クラスの寒波到来のため安全面を配慮して、秋田地区以外の参加者は、リモート開催に切り替えての開催となりました。そんな悪天候の中、審査員の五百旗頭幸男さん(ドキュメンタリー映画監督・石川テレビ放送記者)が駆けつけてくださり、会場から参加してくださいました。

 初めに行われたミニ番組コンテストでは、エントリーされた82作品の中から各地区の予選を通過した21作品が上映されました。
 審査員の五百旗頭幸男さん(石川テレビ放送)、各地区代表幹事7名、そしてリモートで参加した制作者と上映された作品についてそれぞれ質疑応答が行われました。
 ミニ番組コンテストに続き、〈ドキュメンタリーで切り拓くローカル局の未来〉というテーマで、五百旗頭幸男さんのトークイベントが行われました。
 五百旗頭さんは、チューリップテレビに入社し、記者やキャスターなどを務め、2020年に石川テレビ放送に移籍。チューリップテレビに在籍しているときに、富山市議会の政務活動費不正問題を追ったテレビドキュメンタリー『はりぼて~腐敗議会と記者たちの攻防~』を制作し、多くの賞を受賞しました。
 不正が発覚することになった事の始まりは、富山市議会で議員報酬の月10万円引き上げが画策され、可決されたことでした。議員の居眠りは日常茶飯事で緩みきった議会。「どんな議員活動をしているのだろう」と疑問を抱き、政務活動費の領収書を帳簿で調べていくと、不正が次々と発覚。半年の間に14人の議員が辞職することになりましたと話しました。
 「このことを報道することに対して、反発はなかったのでしょうか」という質問に、五百旗頭さんは、「失うものがない強さがありました。自民党を敵に回すからやめようという判断は、現場にも、当時の報道制作局長や部長にもなかった」と答えました。
 五百旗頭さんは、今のメディアの問題について、「記者が安全地帯に留まって、リスクを取らずに終始無難にこなしていないか、それでなにかを表現しても伝わらない」と述べ、「リスクは生じるもの。表現することにおいては、リスクを取らないことこそが、最大のリスクだと思う」と語りました。
 五百旗頭さんは、ドキュメンタリーの映画化にも取り組み、これまでに『はりぼて』と『裸のムラ』の2作品を全国公開しています。“映画化へはどのような思いがあるのか”と尋ねられると、「ローカル局は経営が厳しい状況で、ドキュメンタリーは“金食い虫”という認識があると思う。でも世界に目を向けると、ドキュメンタリーはコンテンツとして成立している。ネット優勢の時代は、ローカル局にとって危機ではなくチャンス。コンテンツの力で生き残っていく時代で、映画化してローカルから全国公開、さらには配信でローカルから世界を見据えれば、新たな収益になる可能性もある」と語りました。
 最後に若手制作者に向けて、「ローカルを見つめれば、この国の縮図が見える。普遍的なテーマはローカルにこそ転がっていると思う。それを如何に取材して、形にして、伝えるか。そのことがとても大事だと思う」とエールを送りました。

 ミニ番組コンテストで最優秀賞を受賞した助川虎之介さん(NHK仙台放送局)、審査員の五百旗頭幸男さん(石川テレビ放送)、秋田世話人会幹事社の後藤裕さん(秋田朝日放送)に、フォーラムの感想をお寄せいただきました。

ミニ番組最優秀賞受賞
コロナ禍 家族の“空白”を見つめて
助川 虎之介(NHK仙台放送局 コンテンツセンター 制作 ディレクター)

 このたびは名誉ある賞をいただき、ありがとうございます。
 番組制作の出発点は、長期化するコロナ禍が社会に何をもたらしたのか考えたことでした。取材したのは高齢者施設。集団感染が課題となるなか、施設は入居者の命を守るため、家族との直接の触れ合いを断つという自己防衛を余儀なくされていました。ガラスやビニール越しの面会で必死に声がけをする家族たちの姿は、コロナ禍がもたらした「家族の“空白”」をなんとかして埋めようとしているようでした。
 「人と人が触れ合うことは生きる力だと思う」。取材の最後、施設に入居する母を亡くした息子さんが話してくれた言葉です。まさに私たちが失ったものを教えてくれていると感じました。
 終わりの見えないコロナ禍で、人々が感じていた“理不尽さ”。やり場のない感情と折り合いをつけながら、温かい家族の愛情で番組を優しく包んでくださった、入居者とその家族の皆さんに改めて感謝申し上げます。

ミニ番組コンテスト審査員
寒波の秋田で再確認
五百旗頭 幸男(ドキュメンタリー映画監督・石川テレビ放送記者)

 寒波襲来の中、初めて訪れた秋田の冷気が全身に突き刺さった。前の週、幹事社からリモート開催を告げられた。「どうされますか」と聞かれ、「行きますよ」と答えた。担当者が発した動揺には気づかぬふりをして、前日に盛岡で足止めされても当日朝に秋田入りすると伝えた。
 32歳の時、北信越制作者フォーラムに出品した。審査員から浴びせられた酷評の雨あられ。うぬぼれ、過信していたと気づき、自分を疑うことを学んだ。このコンテストが若い作り手たちに与えるものは骨身に沁みて知っている。とてもパソコンモニターで審査する気にはなれなかった。
 一昨年、名古屋で審査したのは10作品。今回は21作品。一次審査で82作品から絞られたと知り、気がひきしまる。作品の仕上がりに濃淡はあった。でも、作品からにじみ出る作り手の熱量はどれも高かった。寒波に見舞われた秋田で、かけがえのない意義を再確認した。

秋田世話人会幹事社
コロナが落ち着いたのに…憎い『列島寒波』
後藤 裕(秋田朝日放送 報道制作局報道制作部 副部長)

 新型コロナの感染状況が落ち着き、全国各地でフォーラム開催に向けて動き出していることもあり、「北日本制作者フォーラムinあきた」を開催することを決めました。
 ただ、決まったのが2022年9月で、会場を押さえるにも早くて2023年1月となり、日々の業務以上にリアル開催に向けて準備に奔走しました。
 雲行きが怪しくなったのは、忘れもしない1月22日。「24日~26日にかけて列島に最強寒波がやってくる」というニュースがあちらこちらで聞かれるように。
 人命が第一であることから、結果「オンライン開催」に切り替える判断をしました。
 もともとYouTubeでの配信は検討していましたが、審査の講評などのやりとりなどのため、業者には急きょ双方向性を持たせるためのZOOMの活用をお願いしました。
 迎えた1月26日。審査員の五百旗頭幸男さん(石川テレビ)は会場にお越しいただけて、会場から愛のある講評を北日本各地の制作者たちに送っていただきました。
 急な開催方式変更に、参加者各位のほか、各エリアの世話人の皆さま、放送文化基金の皆さま、審査員の五百旗頭幸男さん(石川テレビ)などご理解をいただいたことに感謝申し上げます。
 心残りは多くの制作者たちとリアルで会って、肉眼で皆さんの表情が見られなかったこと。やっぱりいまも思うのは「あぁ…寒波が憎い」