もっと 制作者フォーラム in なごや
レポート+寄稿
2023年11月22日(水)、東別院ホール(名古屋市)にて、愛知・岐阜・三重制作者フォーラムが開催されました。若手制作者を中心に約80名が集まりました。
ミニ番組コンテストでは、8作品の中から優秀賞3作品が選ばれました。その中から『Mieライブ「受刑者と社会を結ぶ くみひも」』を制作した伊佐治好音さんから番組についての思いを寄せていただきました。
伊佐治好音さん(三重テレビ放送)
三重県の伝統工芸品に指定されている『伊賀くみひも』。
三重刑務所では全国で唯一、その作り方を用いた『くみひも』が作られています。指導するのは、作業技官として三重刑務所で18年間働く、小川雅彦さん。小川さんはただ技術を教えるだけでなく、『くみひも』づくりを通して「失敗しても何度でもやり直せる」と受刑者に語り掛け、受刑者の社会復帰や再犯防止に向けて日々、受刑者と向き合っていました。
皆さんにとって『刑務所』とはどんな場所だと想像しますか?恐らく、多くの人が人生で関わることの無い、無縁の場所だと思います。
私は小川さんの信念を知るため、『刑務所』に恐る恐る足を踏み入れました。『刑務所』という場所への固定概念を持って...。
閉ざされた空間、更生の現場で受刑者と向き合う作業技官・小川さんの『思い』を取材しました。
ミニ番組コンテストの後、審査員の境真理子さん(メディア研究者)、高橋弘樹さん(映像ディレクター)、篠原誠さん (クリエーティブディレクター、篠原誠事務所代表取締役CEO)によるトークセッションが行われ、若手制作者からの質問に熱心に応えていただきました。
審査員の方から、フォーラムの感想、制作者のみなさんへのエールをいただきました。
境 真理子さん(メディア研究者)
会場で不思議な感覚につつまれていた。ここには私がふたりいる、そのような感覚である。照明のあたる壇上から見ると会場はやや暗く、参加者の表情は見えない。会場にいる若い制作者たちの姿に、ふと駆け出しの自分を重ねて見ていた。自信と不安、概念と行動の狭間で揺れながら、テレビの明日を夢見て踏み出そうとしていた。
率直に言って、経験を重ねただけで壇上にいる私に言えることは少ない。確かなのは、テレビ表現の地平を拓き社会をより良く変革する芽は、若き制作者の手の中にある。芽吹く時期は異なるが、焦らず流されず歩んでほしい。時に孤独や孤立を感じても、垣根を越えて出会い語り合う「フォーラム」がある。あの日のフォーラムはテレビのメタファーだと感じていた。自己と出会い多様な人々をつなぐ場を創るために歩き続けてほしい。
篠原 誠さん(クリエーティブディレクター、篠原誠事務所代表取締役CEO)
テレビCMをつくる仕事をしている自分にとって、ミニ番組の審査はとても刺激的なものでした。CMと番組、同じテレビで流れ、同じ視聴者が目にするものなので一見似ていますが、本質的に違うのは、メッセージを伝達することと面白くなければならないこととの比率が全く違うということです。つまり、番組は面白くなければ、圧倒的にその存在意義がなくなる、とてもシビアなもの。若手が制作したミニ番組を見ていると、どうにかして視聴者を引きつけたい!という熱量が感じられました。変化する社会の中で求められるテレビ番組も変わっていくと思います。CMでは、CM単体で成立するアイデアだけではなく、SNSでの広がりも見据えた企画も生まれています。つまり、企画をする上で、かつてよりももしかしたら可能性は広がっているのではないでしょうか。今後、さらに新しい構造の、新しい表現の、新しい番組を、若い制作者の方々に期待したいと強く感じました。