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各地で行われた制作者フォーラムの模様を、参加者の声を交えて伝えます。

2024年11月14日

もっと  制作者フォーラム in あおもり

レポート+寄稿

 2024年11月1日(金)、青森市男女共同参画プラザ・カダールにて北日本制作者フォーラム実行委員会と放送文化基金が主催する「北日本制作者フォーラム in あおもり」が開催されました。開催にあたり、東北6県と北海道にある全民放テレビ局とNHK、計40の放送局が協力し、会場には若手制作者を中心に約40名が参加しました。
 初めに行われたミニ番組コンテストでは、各局が出品した88作品の中から、各地区の予選を通過した21作品が上映されました。番組ごとにゲスト審査員の丹羽美之さん(東京大学大学院情報学環教授)、松原文枝さんテレビ朝日プロデューサー、石原大史さん(NHK チーフディレクター)が講評しました。ゲスト審査員は、番組を見た視聴者が持ちそうな疑問点を指摘しつつ、登場人物の見せ方やどのような番組構成ならより伝わりやすいかといった実践的なアドバイスを送りました。

 引き続き、トークイベントが行われました。ミニ番組コンテストの出品者から事前に集められた質問に回答する形式で進められ、ゲスト審査員はそれぞれ回答していきました。
 日々の仕事と並行して継続取材を行う難しさについて、助言を求められた石原さんは「本当に大事なテーマなら、何年経過しても新たな発見があるはず。取材先のタイミングに合わせて待つことが重要」と回答しました。丹羽さんも応じて、番組作りのヒントが『「待つ」ということ』(鷲田清一、2006年)にあると提示し、「スケジュールをイベント取材で埋めたくなるが、ドキュメンタリーの豊かなシーンはむしろ日常のなかにあることが多い。何気ない日に現場に訪れ、少し待ってみてもいいのでは」と話しました。また、取材対象者への感情移入と番組の客観性のバランスについて松原さんは、「問題意識があるからこそ、取材相手に感情を寄せていくのは当然だと思います。しかし、取材相手を通じて社会に何をどう伝えたいのかを常に考えていれば、相手との距離を保っていきやすくなる」と自身の取材経験も踏まえて語りました。
 その後、会場を移して懇親会が開催されました。放送局の垣根を越え、同世代で悩みを共有したり、上映されたミニ番組について意見を交換したりと充実した表情があちこちに見られました。さらに最優秀賞、優秀賞に選ばれた制作者や、次回の開催地・福島県郡山市で幹事を担当する福島中央テレビの岳野高弘さんのスピーチなどもあり、会場は最後まで熱気に満ちていました。
 来年2月15日の「全国制作者フォーラム2025」には、最優秀賞、優秀賞を受賞した制作者たちが招待されます。

 ミニ番組コンテストで最優秀賞を受賞した木田修作さん(テレビユー福島)、審査員の松原文枝さん(テレビ朝日プロデューサー)、青森世話人会幹事社の小笠原勤さん(NHK青森放送局)にフォーラムの感想をお寄せいただきました。

最優秀賞受賞者
「託された言葉を…」
 木田 修作さん(テレビユー福島)

 私の言葉は必要ない。東京電力福島第一原発事故の被害に苦悩する人たちの話を聞くたびに、そう思ってきた。事故から13年が経過したが、その思いは日増しに強くなっている。編集とは、私が受け取った言葉をいかにして届けるかという仕事であり、彼や彼女たちがカメラを通じて、私に何を託したのかをもう一度確認する作業でもある。
 大賞が発表されたとき、全身から力が抜けていくのを感じた。喜びよりも、受け取った言葉を届けられたのだという安堵の方が大きかった。取材にご協力いただいた、すべての皆様にこの場を借りて御礼を申し上げたい。
 今回の作品は、原発事故の帰還困難区域を主題にしたものだ。13年が経過してなお、被害者の置かれた根本的な状況は変わっていない。忘却や風化、時間の経過とともに失われていくものなどを考えれば、むしろ悪化しているともいえる。
 これからも彼や彼女たちが語る限り、私はその言葉を届けていこうと思う。

ミニ番組コンテスト審査員
「地域報道の底力を確信した」
松原 文枝さん(テレビ朝日プロデューサー)

 福島の帰宅困難区域での不条理を13年に渡って追い続けたディレクターは、「今自分たちが報道しなくなったら誰がするのか」と気概を語った。
 他にも、震災の辛い記憶をいかに克服し伝えていくか、悩みながらもがきながら次の世代につなげる人たちに光を当てた特集。防衛装備品を札幌の業者が違法に流出させていたことを暴いた調査報道。一方で、異常に出没する熊の生態や、滅多にお目にかかれない白ざるを映像で綴った作品もあった。どれも力強く熱量にあふれていて、地域報道がいかに大切か、また放送の役割というのを再認識させられた。
 現実の課題は地域の暮らしの中にある。これを浮き彫りにすることは日本社会の課題解決につながる。日々の業務に追われながらも、粘り強く取材を続けてきた記者やディレクターたちが自らの問題意識を語る姿は頼もしく、この底力を持続させることが放送を強くすると確信した。

青森世話人会幹事社
「伝えるチカラ この地から」
小笠原 勤さん(NHK青森放送局 コンテンツセンター長)

 今年の案内リーフレットに載せた一言キャッチです。地域に根差した放送局の制作者たちが、テレビというハコから熱量を持って何が伝えられるのか?そんな思いをフォーラムで議論したり共有したり出来れば、と入れてみました。開催日は11月三連休の直前、しかも衆院選直後の週末ということで、青森まで参集頂けただけでもありがたい限りでしたが、上映した番組も地域医療の課題から震災伝承、クマ出没など、地域色溢れる多彩なテーマで「チカラ」のある企画が揃い、大変見応えあるコンテストとなりました。ゲスト審査員への質疑応答で構えたトークセッションも、同じ制作者の先輩から気づきになるヒントを得られる貴重な機会となりました。当日参加された方々や放送文化基金の皆様を始め、北海道・東北の制作者の皆様に感謝するとともに、今後のご活躍をお祈りします。