もっと 制作者フォーラム in とやま
レポート+寄稿
2024年11月30日(土)、NHK富山放送局 1F公開スペースにて北陸・甲信越制作者フォーラム実行委員会と放送文化基金が主催する「北陸・甲信越制作者フォーラム in とやま」が開催されました。今年から山梨放送、テレビ山梨、NHK甲府放送局の3局が加わり、「北信越制作者フォーラム」から「北陸・甲信越制作者フォーラム」と改称されました。開催にあたり、北陸3県と甲信越にある全民放とNHK、計25局が協力し、会場には若手制作者を中心に約40名が参加しました。
初めに行われたミニ番組コンテストでは、各局が出品した19作品が上映され、ゲスト審査員がひと番組ごとに講評を行いました。ゲスト審査員には、これまで『内村プロデュース』『『ぷっ』すま』(テレビ朝日)でディレクターを担当し、現在はYouTubeチャンネル『エガちゃんねる』を開設、運営している藤野義明さん(ばんぺいゆ 代表取締役)、『レンタルクロちゃん』『アインシュタインの出没!ひな檀団』等の演出を担当する上田健大さん(中国放送 テレビ局編成制作部)、『最期を選ぶ~安楽死のない国で 私たちは~』で2024年民放連テレビ報道部門優秀賞を受賞した山本将寛さん(フジテレビジョン 情報制作局)が登壇しました。
今回のフォーラムでは、例年よりバラエティのミニ番組が多く出品されました。ゲスト審査員からは、出演者の個性がより引き立つような衣装にしたり、いいリアクションをもらえるような“攻め”の質問を投げかけたりといった、演出面の実践的なアドバイスが送られました。また、出品された番組全体として、ナレーションベースで作りすぎている点も指摘され、実際の現場で起こる変化をチャンスと捉え、台本から外れていく勇気を持つことが番組の面白さにつながることも課題として共有されました。
引き続き、「ローカルでトガル」をテーマにトークイベントが行われました。「ご自身の経験からトガれたきっかけは?」「ここだけの話こんなところでトガれます!!」をサブテーマに、これまで“トガッた”企画で映像制作してきたゲスト審査員がそれぞれ経験談を語り合いました。
上田さんは、自身の営業時代に企画した『RCCテレビ60年特別企画リリーフドラマ「恋より好きじゃ、ダメですか?」』(総務大臣賞/ACCグランプリ 受賞)について語り、「もともとドラマを制作してみたかったが、地方局では予算的に厳しい現状があった。局内の周年イベントなら予算が下りやすくなると思って応募し、放送枠も広島東洋カープ戦の中継が早終わりして空いた時間枠に放送することで実現できた。広島戦は広島県内で高視聴率なので、その恩恵を預かれるという見込みがあった」と、いつ放送されるか分からないドラマの誕生秘話を明かしました。
山本さんは、「当時、安楽死をテーマにした番組の企画は通りにくかった」と言い、「それでも自分が本当に面白いと思うテーマを信じ続けたからこそ、他の番組にはない自分の色が出て結果につながった」と語りました。また、現在担当している『Mr.サンデー』内の再現VTRパートをアニメにしたことも、「興味を持ってもらえる工夫として思い浮かんだ」と話しました。
最後に、江頭2:50さんが笑いと音楽で魅了する『エガフェス』制作の裏話で会場を笑いに包んだ藤野さんから、「クリエイティブとは発想力や創造力ではなく、実現できないかもしれない企画を現実にしていく突破力だと思う。周りからダメと言われた企画にこそ、“トガル”突破口がある」と総括しました。
その後、会場を移して懇親会が開催されました。放送局の垣根を越え、同世代で悩みを共有したり、上映されたミニ番組について意見を交換したりと親睦を深め、会場は大いに盛り上がりました。
来年2月15日の「全国制作者フォーラム2025」には、最優秀賞、優秀賞を受賞した制作者たちが招待されます。
ミニ番組コンテストで最優秀賞を受賞した菅井智絵さん(北陸朝日放送)、審査員の上田健大さん(中国放送 テレビ局編成制作部)、山本将寛さん(フジテレビジョン 情報制作局)、富山世話人会幹事社の高田一輝さん(チューリップテレビ)にフォーラムの感想をお寄せいただきました。
菅井 智絵さん(北陸朝日放送)
能登半島地震で亡くなった輪島塗の蒔絵師・島田怜奈さんの生きた証を残したいという思いで制作した特集です。
1月、石川県が行方不明者として島田さんの名前を公表してから、彼女が通っていた研修所やワークショップを行っていた工房に行きました。
関係者から話を聞けば聞くほど島田さんの無事を願い必死に探している人が本当にたくさんいること、県外の出身ながらも地元の方と強い結びつきがあることを知りました。
被災地取材をしていた際、「今、大変な状況の人に話を聞いてよいのか」「そっとしておくべきではないのか」など心の葛藤があり、記者として自分の無力さを感じたこともありました。そんな中、地震の死者が数字として増えていく一方でその数字の裏には1人1人の人生があると思い、それを多くの方に伝えたいと制作しました。
上田 健大さん(中国放送 テレビ局編成制作部)
テーマを見た瞬間からずっと、頭から離れませんでした。「ローカルでトガル」ってなんだろう? 今回、北陸・甲信越の若手制作者のみなさんの作品を見ながら、熱くなる自分がいました。全19作品はどれも地域を思う愛と作り手の情熱が込められており、「テレビって素敵だな」と再確認。ぼんやり見えてきた「トガル」ということ。
審査をともにした藤野さんは、難しい状況でも実現させる「突破力」について、山本さんは「取材対象者との向き合い方」を最後に伝えていました。
「好き」というだけでテレビ業界の門をたたいた14年前。取り巻く環境は大きく変わりましたが、いまだ冷めやらぬテレビへの思い。自分の中で「トガル」ことは、「好き」でい続けることでした。
人が人を見つめ、物語を描く。全国各地で生み出されるトガったコンテンツがある限り、私たちは今日もテレビを作り続けます。
山本 将寛さん(フジテレビジョン 情報制作局)
「ローカルでトガル」というテーマに恥じない良作が並んだフォーラム。能登半島地震で命を落とした蒔絵師の生きた証を、彼女が残した輪島塗を頼りに徹底的に取材した作品や、遺体の見つかった廃墟が心霊スポットと化していたことを映像とともに明らかにした作品など、制作者の熱意ある取材なくしては生まれなかった作品が目立った。一方、歴史ある名店の閉店の折に、継続取材で培ったアーカイブ映像とともにお店から中継するなど、ローカルならではの演出も。甲乙つけ難い出品作のいずれにも共通するのは、取材先への“愛”。市井で何が起きているのか。それを本気で知ろうとし、本気で伝えることが我々メディアの使命。その使命を全うしようとする若手制作者たちがこれほどまでにローカルで輝いていることに頼もしさを感じた。何より、“愛”ある本気の取材は、信頼に足るメディアとして必要不可欠だと強く感じさせられた。
高田 一輝さん(チューリップテレビ)
【トガル】には「他よりも突出している」という比喩的な意味があります。
膨大な数の動画コンテンツの中からローカル局が選ばれるためには他と比較して突出した何かが必要ではないのか。その考えをテーマに込めました。
山梨県の放送局が加わり「北陸・甲信越制作者フォーラム」として新たなスタートを切った今回。番組コンテストには取材の熱量で「トガッた」作品や、奇抜な演出で「トガッた」作品、ありそうでなかった組み合わせで「トガッた」作品など、若手制作者が手掛けた19作品が集まり、しのぎを削りました。
恒例のゲスト審査員によるトークセッションも開催。「ローカルでトガル」をテーマに人気コンテンツが生まれるきっかけが語られると、参加者が目を輝かせて話に聞き入っていたのが印象的でした。「テレビにはまだ可能性がある」「ローカル局も戦える」そう感じるアツい会になりました。