もっと 制作者フォーラム in ふくおか
レポート+寄稿
2024年11月16日(土)、NHK福岡放送局よかビジョンホールにて、九州放送映像祭実行委員会と放送文化基金が主催する「九州放送映像祭&制作者フォーラム」が開催されました。このフォーラムには、九州・沖縄の全民放テレビ局とNHKが協力、制作者を中心に、約60名が参加しました。
初めに行われたミニ番組コンテストには、多様なテーマで31作品が参加。ミニ番組を順に視聴し、審査員の匂坂緑里さん(TBSスパークル プロデューサー)、佐々木聰さん(KRY山口放送 報道制作局 チーフプロデューサー)、四元良隆さん(KTS鹿児島テレビ 報道制作局制作部 部長/プロデューサー)が番組ごとに講評を述べました。
ミニ番組コンテストに引き続き、審査員の3名とコーディネーター役に大村由紀子さん(RKB毎日放送 テレビ制作部 シニアエキスパート)を迎え、「ドキュメンタリーの種の見つけ方」をテーマに、トークセッションが行われました。それぞれの代表作を例に挙げながら、被写体の見つけ方や向き合い方について語っていただきました。
佐々木さんは、映画『ふたりの桃源郷』の主人公である夫婦との出会いを例に挙げながら、「“その人のことを知りたい”、“その人に会いたい”というごく普通の感情に抗わないようにしています」と話しました。そして、「一緒に楽しんだり、悩んだりするうちに、それらをカメラマンが撮影していて、放送を繰り返していると、いつの間にか番組になっています」と話してくれました。
匂坂さんの『通信簿の少女を探して ~小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今~』は、企画がなかなか通らなかったため、自らのiPhoneでひっそりと撮影を始めたと言います。「誰に頼まれたわけでもなく、でも、気になるから捜す。その過程で、自分でも“何をやっているんだろう”と思うこともありました。でも、諦めかけたときには必ず何かが目の前に現れ、“次はここに行きなさい”、“この人に当たりなさい”といったものが繋がっていったんです」と制作秘話を語ってくれました。
四元さんは、『20年目の花火』について、遺族がいる事故取材と向き合う難しさについて語りました。また、「取材対象にアプローチしたり、具体的な行動を起こすと、初めてわかる風景があります。この番組を通して取材を続けることの大切さを教えてもらいました」と述べました。さらに、何気ない日常の中で、“心を動かされたこと”を描くことにしていることや、「“ニュースで描けないことを描こう”を合言葉にしています」と話してくれました。
それぞれのお話から「ドキュメンタリーの種の見つけ方」のヒントを頂き、トークセッションを終了しました。
懇親会では、ミニ番組部門の表彰式、そして制作者同士の交流が行われました。
ミニ番組コンテストでグランプリを受賞したMBC南日本放送の前田政樹さん、審査員の匂坂緑里さん、九州放送映像祭&制作者フォーラム実行委員の野村友弘さんに、フォーラムの感想をお寄せいただきました。
前田 政樹さん(南日本放送 制作技術部)
『おばちゃんの鳥刺し』の撮影は、元々別件で取材した情報番組のディレクターから「気さくなおばちゃんが切り盛りしている精肉店が、今度閉店するから撮影してみては」と勧められたのがきっかけでした。
郊外の小さな無人駅の前にある木造平屋の小さなお店。店内の幅は両腕を広げたくらいでその中の作業場はさらに狭く、カメラの三脚を立てるのも、一苦労するような大変小さなお店でしたが、おばちゃんの人柄、冗談をいいながらもどこか優しいお客さんとのやりとり、そしておいしい鳥刺しと、撮影初日で、その店が大好きになりました。
撮影は、主におばちゃんと雑談しながらのものでした。商売を始めて57年の大ベテランは話も大変上手です。マニキュアは、おしゃれの為ではなく、鶏肉を裂くときに、割れてしまう爪を保護する為といった話や、ご主人に先立たれてから、店を一人で切り盛りしてきた苦労話などを、冗談をまじえながら話してくれました。
ただ「3人の子どもたちが小さい頃はもうちょっと一緒にいたかった」と話した時の少しだけ寂しそうな表情が印象に残りました。迎えた閉店当日、50代になった三人の子どもたちが、店を手伝っているのをみて、「子供のころは寂しい思いをさせた」とおばちゃんは後悔していましたが、これまで一生懸命に仕事をしてきた、おばちゃんの姿はちゃんと家族に伝わっていたんだなと思いました。
私は2020年から今回の精肉店のような地域の小さな店舗の閉店をテーマにいくつか撮影してきました。どの店舗も約40年以上、中には60年以上営業してきた町の老舗店で、業種もパン屋、豆腐屋、洋品店など様々です。地域の風景の中で目立たず、でも毎日の暮らしの中で地域を支えてきたお店です。そして、鳥刺しのおばちゃんのような、真面目に地道に生きてきた人たちのお店です。見習うことがたくさんある人たちでした。これからも少しでも多くそういった人たちを撮影し、放送できたらと思います。
匂坂 緑里さん(TBSスパークル プロデューサー)
“オワコン”と言われるテレビ。でも31本の5分の豊かな世界に、そこに人がいる限り、テレビは“オワらないコンテンツ”なのだという思いを強くした映像祭でした。
河童をめぐり夢と科学の間でゆれる老人のおかしみ。障害を底抜けな笑顔で受け止める母子には圧倒されました。兄の胸の内を耳で察する野球少年、マイクオフという行政の横暴さを追い続けた記者の姿勢には、5分という短さとは思えぬ多くのものをいただきました。105歳の桜の絵は、画家の生涯そのもののようにあっぱれでした。アサギマダラに魅せられた、その少女と父に魅せられたディレクター。撮って問うているつもりがいつの間にかディレクターが問われるおもしろさ。ああ、これだからテレビはやめられません。
誰に頼まれたわけでもないけれど、明日もカメラ持ってどこかへ行こう。
野村 友弘さん(九州朝日放送 報道制作局次長)
わずか5分、されど5分。VTRに没入し、思わずほろりとなる場面は複数回に上った。九州・沖縄の各局から31の作品がノミネートしたミニ番組コンテスト。実行委員として上映から審査の過程までを詳らかに観察し感じた審査のポイントは「いかに人に迫ることができていたか」に尽きる。グランプリの『おばちゃんの鳥刺し』では“どこにでもありそうな精肉店”の女性の人生を垣間見、人間っていいなと、心地よい余韻に満たされた。TVの得意なところを伸ばしていけば、その先にはネットや映画など表現の場は大きな広がりを見せている。厳しい経営環境などの話は百も承知でTVは捨てたもんじゃない、そう思っている人のところにドキュメンタリーの種は巡ってくる。それはセッションテーマの「ドキュメンタリーの種の見つけ方」の答えにつながっているなと感じた。