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事務局のスタッフの助成プログラムレポート、関連イベントへの参加レポートなどを掲載します。

2025年3月13日

第22回日韓中制作者フォーラム(中国山東省青島)に行ってきました!

レポート

宿所の窓から見た青島市

会場は巨大映画スタジオ

2025年2月24日~28日に中国山東省青島市で第22回日韓中制作者フォーラムin青島が開催されました。

2001年に国や立場を越えた番組を通しての制作者の交流を目的に日韓で始まったフォーラムは、第3回から中国が加わり、3か国が持ち回りでホスト国となり開催されてきました。放送文化基金は立ち上げ時、そして正式に3か国開催となってからは日本開催時に助成金で支援をしてきました。中国がホストとなり青島で開かれた今回のフォーラムに、前回に続き梅岡専務理事と私(大園)がオブザーバーとして参加しました。

2023年に韓国京畿道パジュ市で開催された前回は グローバルコンテンツ会議&日韓中PDフォーラムと称し、3か国だけでなく欧米からも世界トップクラスのプロデューサーを招聘し、アジアのコンテンツの可能性について様々な角度から活発なディスカッションが行われ、制作者たちのニーズに沿った興味深いフォーラムとなりました。続く今回は当初2024年秋の開催を予定していましたが、中国側の都合により年が明けてから、「若者と伝統文化:交流による継承と発展」をテーマに青島市で開催されることが決まりました。

会場となったのは巨大な映画スタジオ・青島東方影都産業パークです。建物の入り口には中国の映画監督の写真やアイアンマンのハルクバスターなど米ハリウッド映画キャラクターのフィギュアやトロフィーが並び、ホールには大きなビジョンが設置され、チャイナドレスのコンパニオンの女性たちの出迎えがありました。4日間のフォーラムには日本18人、韓国45人、国87人の150人が集まりました。

青島東方影都産業パーク

建物入口ホール

数々のフィギア

韓国で熾烈を極めるコンテンツ競争への対策

はじめに3か国の実行委員長からの基調講演が行われました。印象的だったのは韓国の実行委員長である韓国文化放送MBC代表理事のアン・ヒョンジュンさんの「伝統メディアのプラットフォーム戦略」発表の中で触れられたIP(知的財産)ハブ戦略です。外資メディアを交えて熾烈なコンテンツ競争が繰り広げられている韓国コンテンツ市場において、地上波放送局MBCとしても様々な試みを実践しており、昨年にモスト267(MOst267)というコンテンツスタジオを立ち上げ、映画、ウェブトゥーン、ドラマなどの外部制作会社と提携し、共同で本格的にIPビジネスを開拓する計画など、具体的な戦略が語られ、熱を感じました。

MBC代表理事のアン・ヒョンジュン氏発表「伝統メディアのプラットフォーム戦略」

その後は、3か国が出品したドキュメンタリー、ドラマ、情報バラエティの各ジャンルから一作品ずつ、全9作品についてそれぞれ鑑賞し、同時通訳を介して制作者と会場とのQ&Aを行う形で進められました。

食を通して中国社会の変化を描く大型ドキュメンタリー

中国からの出品作は、どれも大きな放送局が多額の制作費と時間をかけて制作した大作だったのが特徴です。『舌の先で味わう中国 第4シリーズ』は中国中央電視台(CCTV)制作、2025年2月に放送された50分×7回の連続ドキュメンタリー。視聴したのは「天の恵み」をテーマにした回で、中国各地のその土地の人々が日々の暮らしの中で作物を育て、収穫し、調理して食するまでの姿を、美しく素朴な風景とともにオムニバス形式で描いたものです。食べ物を通して中国の社会、美意識や価値観の変化を浮き彫りにする作品でした。シーズン3から7年ぶりの新作に挑むにあたり困難だったことは何かという問いに、総合ディレクターの張涵冰さんは、同種のライバル番組も多い中でいかに視聴者に新鮮さを感じてもらうかを考え、切り口を工夫したと答えていました。番組の最後に一般の人がスマートフォンで撮影したショート動画を入れることで、格式張らず、トレンドや市民の視線を入れる工夫をしたことも明かしました。また、番組で紹介されるまで地味で知られていなかった食べ物が一躍有名になり、オンラインで全国からの注文が相次ぐなど影響力の大きさへの言及もありました。

「舌の先で味わう中国 第4シリーズ」上映とトークセッション

 ▶YouTube:『舌の先で味わう中国 第4シリーズ』

中国からは他に、中央電視台(CCTV)、北京愛奇藝科技有限公司(iQIYI)、上海劇行天下影視伝媒有限公司(Juxingtianxia Movie&TV)が共同制作したドラマ『南来北往』、湖南衛視と芒果TV(Mango TV)制作のバラエティ『声生不息 大湾区シーズン』が出品されました。

AIは韓国トップ歌手の歌声をどこまで再現できるのか?

韓国からの出品作もすべてソウルの地上波放送局が制作した大型番組でした。韓国放送公社(KBS)制作の『SyncroU(シンクロユー)』は、AI音楽推理ショーと銘打った実験的なバラエティ番組。音楽家やアイドル、タレントで構成された推理団が、有名なトップ歌手の歌声を聴き、それが本物の歌手の歌声か、99%のシンクロ率を誇るAIが作り出した歌声なのかを推理します。実際に聞いてみても素人の耳では本物かAIかの区別は全くつきませんでした。KBSの番組の視聴者層は高齢層に偏っている傾向があり、若い人たちに見てもらおうと考えた企画だったとのこと。会場からは、歌手の声を採取してAIの声を作る際の権利の問題について質問が相次ぎ、メインプロデューサーのグォン・ジェオさんは、権利関係については法務部に担当してもらい、採取した声は番組の放送・配信とプロモーションにのみ使用するという条件で許可を得ていると回答しました。また、出演のオファーをしたが、声の採取について拒否する歌手もいたとのことでした。その他の質疑からは韓国でAIを放送にどう取り入れていくかを各局が試行錯誤している様子が伺えました。

SyncroUの上映

KBSプロデューサー グォン・ジェオ氏

 ▶YouTube:『Syncro U 싱크로유』

韓国からは他に、MBC制作のドラマ『こんなに親密な裏切り者』、SBS制作のドキュメンタリー『学田そして後ろのキム・ミンギ』が出品されました。」

女性の数が増えている日本の制作現場

日本からの出品作は3作品ともATP加盟の制作プロダクションが手掛けた番組でした。ドラマ『SHUT UP』は、2023年12月から2024年1月にかけてテレビ東京系列で放送された作品で、貧しい環境で身を寄せ合う女子大生4人が、仲間を妊娠させた上、まともに取り合わず見下す相手の男への復讐を決断し、100万円強奪計画を繰り広げるクライムサスペンスです。テレパックに入社して3年目で、本作でアシスタントディレクターを務めた土持優稀さんが発表を行いました。シリアスなストーリーは現実に起きた性暴力事件を彷彿とさせ、SNSでの反響も大きかったといいます。女性のために声をあげることに難しさはあるかと問われ、土持さんは、日本のメディアも変化していて、制作現場にも女性の数は増えているし、自分が今日ここに立てていることも含めて女性が意見を言いやすくなっていると答えました。また、中国のドラマに比べて展開のペースがゆっくりだが視聴率に影響はないのかという問いに対して、表情の演技や“間”を重要視したためで、刺さる人には深く刺さるドラマになったのではないか、視聴率はそれほどでも配信での反応がよかったと応じました。また、ドラマの制作費についての話題になり、日本ではドラマの数は増えているのに制作にかけられる金額が減ってきており、現実は厳しいが、今後の国の支援などにも期待したいと語りました。

テレパック 土持優稀さん

▶『SHUT UP』はU-NEXT、Leminoで配信中

日本からは他に、朝日放送、エー・ビー・シー リブラ制作のバラエティ『シークレットゲームショー』、BS朝日、テレコムスタッフ制作のドキュメンタリー『カコノミライ:SDGs 持続可能な暮らしへの道しるべ』が出品されました。

スタジオの規模の大きさに圧倒された最終日

最終日には閉会式が行われ、中国政府の重鎮の挨拶、作品を出品した制作者へのトロフィー、花束の授与や、中国の代表から次回の開催国日本の代表への旗の引継ぎ式などが粛々と行われました。旗を受け取った日本実行委員長の沼田通嗣実行さん(ATP理事、テレパック取締役)は、ホスト国中国の準備やおもてなしに対する感謝を述べ、次回の日本開催についても万全な準備で日本らしいフォーラムを開催したいと抱負を語りました。

引継ぎセレモニー

プログラムの最後は映画スタジオの見学ツアーでした。青島東方影都映画・テレビ産業パークの総敷地面積は170万平方メートルで、40の国際基準スタジオと32のセット制作作業場を有しています。参加者はカートに乗って移動しながら、モーションキャプチャー、VR撮影、3Dスキャンなどのデジタル音響・映像設備やアジア最大の水中撮影センターを見学しました。中国の有名な映画やテレビ作品だけでなく海外の映画作品もここで数多く創出されており、中国メディアでは「中国SF大作のゆりかご」と呼ばれているそうです。広大な敷地に並び立つ巨大なスタジオの壮大さに目を奪われるばかりでした。

フェイスキャナー

モーションキャプチャースタジオ

水中撮影センターのプール

次回の日本開催に向けて

今回のフォーラムのプログラムは、準備期間があまりなかったこともあり、出品作品の視聴と質疑のほかに企画はなく、前回に比べて物足りなさがあったことは否めません。もちろん懇親会などでは国を越えて個々のプロデューサー同士の交流は持たれましたが、共同制作などの国を越えたコラボレーションを生み出すような議論の場をプログラムに組み込めなかったことは残念でした。その中でも、前回に引き続きATP事務局が日本語と英語で加盟会社の代表作や連絡先などを明記したATPクリエーター電子カタログを準備し配布したことは有意義な試みであり、少しでも多くの中国・韓国の制作者たちに日本の制作会社について知ってもらう契機になればと願うばかりです。また、中国の主催者は中国テレビ芸術家協会、韓国の主催者は韓国PD連合会で、どちらも放送局からの参加者が多いのに対し、日本はATP加盟社からの参加者が多く、参加人数自体も含めてアンバランスな点も今後の課題になりそうです。

とは言え、3か国の多種多様な番組を視聴し、直接制作者の話を聞けたこと、多くの参加者と交流できたこと、素晴らしいスタジオを見学できたことで実りの多いフォーラムとなりました。放送文化基金が、今年秋に日本で開催予定のフォーラムを助成金で支援することも決まっています。ぜひ、国を越えた制作者同士の新たなビジネスチャンスが生まれるようなフォーラムとなることを期待したいと思います。

日本からの参加者

 参加者全員で記念写真



(事務局 大園百合子)