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読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2015年9月17日
第41回放送文化基金賞

寄稿

個人・グループ部門 [放送文化]

新しい技術と『世界遺産』

TBSテレビ 堤 慶太

『世界遺産』制作チーム(TBSテレビ)は、20年にわたって、最先端の撮影技術・放送技術を用いた映像表現の開発に挑戦してきたことが評価され、個人・グループ部門〔放送文化〕を受賞した。最新技術へのこだわりや撮影の裏側について、プロデューサーの堤慶太さんに寄稿していただいた。

スタート以来の番組コンセプト

 『世界遺産』は、1996年4月に放送をスタートしました。そのときから「人類共通の財産である世界遺産を、最新の技術で記録し、未来に残す」ことを番組コンセプトにしています。
 私見ですが、番組の寿命は最初にたてたコンセプトの明確さとスケールにかかっていると思います。『世界遺産』が20年続いているのも、そのコンセプトがしっかりしていたがゆえではないでしょうか。
 ただし、「最新の技術」にこだわるのは結構、大変です。

いち早くドローンを導入

番組で初めて使ったドローン

東大寺の参道ギリギリから・・・

急上昇して・・・

大仏殿の全景を空から撮影

 番組では4年前から使っているドローン。当時はまだ「小型無線ヘリコプター」とか、プロペラが複数あるので「マルチコプター」などと呼んでいました。導入当初は、個人でマルチコプターを作っている方に無線操縦も含めて協力してもらいました。
 最初に撮影したのは奈良、東大寺。もちろん許可をもらい、参観者のいない時間帯に行った撮影でした。
 参道を地面ギリギリの低空で飛び、大仏殿手前で一気に上昇、大仏殿の全体を空から見る・・・・・・通常の空撮やクレーンでの撮影では不可能な、これまで見たことのない映像となりました。
 これ以降、海外の撮影でもドローンを多用するようになり、番組のカメラマンも自分で使いこなせるよう特訓しました。無線操縦でスムーズに動かすことが、カメラワークと直結するからです。
 あるカメラマンの場合は、毎日、ドローンを地上2mくらいでホバリングさせ、一緒に歩いて回る・・・といったことまでやりました。イヌならぬドローンを連れたおじさんの姿、見た人はビックリしていたそうです。
 番組では世界遺産にダメージを与えることが決してないよう、ドローン撮影の場所や時間に細心の注意をはらってきました。そして最新の技術であったため、使う人も頻度も少なく、そのため規制もなく、いろいろな場面での活用が可能でした。
 しかし、安価なメーカー製品も出て、ドローンはあっという間に一般人にも人気になりました。普及してくると、「首相官邸への落下事件」のようなことも起こります。イタリアなど、ドローンを飛ばすのには免許が必要な国がでてきて、日本も免許制などの規制を進める方向です。またドローン撮影を禁止する世界遺産も増えてきています。
 最新の技術を先行して導入してきたアドバンテージが、技術の一般化によってなくなりつつある・・・・・・これがドローンのケースです。

4K事始めは祇園祭

京都 写っているのはほぼ全員4K撮影チーム

 4Kの技術も、かなり早い段階から番組制作に取り入れてきました。
 最初に撮影を行ったのは、2012年、京都。祇園祭の時でした。
 ハイビジョンの4倍の画素数という超高精細の映像、ちょっとでもピントが甘いと、その甘さが際立ち、使いものになりません。そのため、映画と同じようにピント合わせをする撮影助手を増員しました。また4Kの場合、レンズの性能もダイレクトに画質に反映するため、高性能で大型のものが必要となり、機材も重く大量になりました。
 さらに、映像は専用のメモリーに記録するため、このデータを管理するためのスタッフも増員。そんなこんなでスタッフの数は通常の倍以上。祇園祭のものすごい人出の中、大量の機材と共にぞろぞろと動き回ることとなりました。
 山鉾巡行ならぬ4K巡行です。京都の暑い夏、山鉾をひっぱる京都のヒトも汗だくですが、こちらも汗まみれの撮影となりました。
 夜になっても、最新技術ゆえの大変さは続きます。
 当時は専用メモリーが高価で、予算的に限られた数しか使うことが出来ませんでした。そのため、データ管理のスタッフが、毎晩、その日に撮影したものを別のハードディスクにコピーし、コピーを終えたメモリーを翌日の撮影に使ったのです。4Kはデータ量も大きいので、コピーに朝までかかることも多々あり、データ管理のスタッフは、毎日、睡眠不足という事態になりました。

4Kの衝撃

京都・祇園祭 山鉾巡行

 京都のときは、撮った映像を現場で4K画質で再生・確認することは出来ませんでした。ロケに持って行くことができる小型・軽量の4K対応モニターがまだなかったからです。
 そのため、4K画質で初めて映像を観たのは、東京に戻ってから。このときの衝撃は、今でも忘れられません。
 山鉾巡行の背景、遠くに銀行の看板が映っていたのですが、ハイビジョンでは間違いなく不鮮明になる距離にある「○○銀行」という文字がはっきりと読めたのです。
 ディテールを描く力が飛躍的に増す、これが4Kの特質のひとつです。
 その後、さまざまな世界遺産を4Kで撮影してきましたが、映像を観るたびに、4Kのディテール描写力を感じます。1500年前に描かれたモザイク画、その小さなモザイクひとつひとつの質感。野生動物の毛並み、その一本一本が風でそよぐ動き。ハイビジョンではクローズアップでないと表現できなかったものが、ワイドなサイズの映像でも描くことが出来るのです。

 テレビの映像は、常に高精細・高画質へと進化してきました。
 『世界遺産』という番組は、その進化と共に歩んできました。世界遺産を記録して未来に残す・・・・・・この番組コンセプトゆえ、映像アーカイブとしての質、つまり映像の質を追求する必要があるからです。
 放送20年を迎えた番組は、今後も、最新の撮影・放送技術に挑戦しつづけることになります。

プロフィール

堤 慶太 さん (つつみ けいた)
TBSテレビ報道局報道番組部 『世界遺産』プロデューサー
1986年、TBS入社。『ブロードキャスター』、『ニュース23』などの情報番組、ニュース番組および、ドラマとドキュメンタリーを融合した『シリーズ激動の昭和』などのノンフィクション番組を担当。2011年6月より現職。