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読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2018年10月3日
第44回放送文化基金賞

鼎談

ラジオ番組 [優秀賞]

電波を出さないキーステーション・
火曜会が制作したラジオドラマ

亀渕 昭信 中筋 雄介 金田一 秀穂


 「神田・神保町 レコード屋のおかみさん」(地方民間放送共同制作協議会・火曜会)がラジオ番組部門の優秀賞を受賞。この番組の中にも登場した神田駿河台の山の上ホテルにて、金田一秀穂審査委員長が、この番組の企画・解説をした亀渕昭信さんと火曜会のメンバーでもあり番組制作にかかわった中筋雄介さん(RKB毎日放送)にお話をきいた。

番組のあらすじ
 東京は神田・神保町に 1930 年に創業した“レコードの歴史・文化の継承”をモットーとする老舗レコード店 「有限会社レコード社」があります。大正から昭和そして平成への激動の歴史の音にじっと耳を傾けてきました。1940 年から店を手伝い始め、以後社長として店を守ってきた故・井東冨二子さんが 2008 年から連載してきたエッセイ「レコード屋のおかみさん 65 年」をもとにしたラジオドラマを制作しました。

金田一 秀穂 さん
(きんだいち ひでほ)
ラジオ番組審査委員長

金田一

 第44回放送文化基金賞ラジオ番組の優秀賞おめでとうございます。

亀渕

 ありがとうございます。火曜会は放送局ではないので、民放連の番組コンクールにエントリーしたいと思っても資格がないんです。でも素敵な番組ができたから、どうしてもコンクールに出したいと思って、見つけたのが放送文化基金賞だったんです。じつは、火曜会は、『録音風物誌』の制作で36年前に放送文化基金賞を頂いていたんです。

金田一

 そうでしたか。まず、地方民間放送共同制作協議会・火曜会について教えていだだけますか?

中筋

 はい、ラジオの歴史は1920年にアメリカで始まって、日本では1925年にNHKの放送が始まったんです。そして民間放送は、1951年に始まり、その1年後に火曜会の前身である火曜クラブができました。

金田一

 そんなに前から設立されていたんですね。

中筋

 北海道から沖縄まで、東京と大阪以外の全国AMラジオのローカル局が37局加盟していまして、共同で番組制作に取り組んでいる、電波を出さないキーステーションなんです。設立当初は火曜日ごとに地方局の東京支社長が会合を開いていました。そのころは経営も大変で、できるだけ経費を切り詰めて、質の良い番組を自分たちの手で作ろうと1953年に各局持ち回りで制作する『録音風物誌』が誕生したと聞いています。火曜会は、民間放送の一番古いネットワークなんです。

金田一

 『録音風物誌』は今も制作・放送しているんですか?

中筋

 はい、65年間続いています。地方の風物を音で切り取り、10分間の番組として制作して放送しています。毎年コンクールもあります。

亀渕

 若手が地元で面白いことを見つけて、制作する。若手の制作者を育てる意味合いもあるんです。

金田一

 『録音風物誌』のようにデイリーの番組もあるし、受賞した『レコード屋のおかみさん』のように特別枠の番組もあるんですね。

亀渕

 はい、今回は火曜会設立60周年記念で何か番組を作ろうということになって、企画を出しました。

金田一

 普通は60周年だからドキュメンタリーとか深刻な内容のものとかを選ぶんでしょうけど、この番組はちょっと、毛色が違っていましたね。面白かったです。

おかみさんがエッセイを
連載していた「本の街」

亀渕

 ありがとうございます。月刊文化情報誌「本の街」という「銀座百点」のような冊子が神田・神保町にもあるんですが、そこに2008年から『レコード屋のおかみさん65年』というエッセイを、レコード社の社長だった井東冨二子さんが連載していたのを思い出したんです。これをドラマにしたら面白いだろうなって。お店の方やお孫さん、レコードコレクターの方などたくさんの人に取材しました。

樹木希林さんのすごさ

金田一

 おかみさんを演じた樹木希林さんっていう役者さんは、やっぱりすごいなと思いながら聴いていました。

亀渕

 僕は日本を代表する女優さんだと思います。

金田一

 今やそうですね。

亀渕

 今度の映画『万引き家族』で、入れ歯をはずす演技があるんですが、めちゃめちゃ怖くて凄みがありましたね。

金田一

 この番組の中でも、「ジュリ~!」ってやってくれたでしょ。「おおっ」って懐かしくて、嬉しかったなぁ。

中筋

 許可を取らずに台本にサラッと入れていたら、やってくださったんですよ。

金田一

 へー、いい人だなぁ。

亀渕

 樹木さんは、この番組みたいに経済的に潤沢でない番組を、助けてくださるんです。別にボランティアというわけではなく、小さい番組や映画でも筋がいいと、きちんとやってくださる。一つ一つ丁寧に作品を選ばれていらっしゃるのが素敵ですね。

金田一

 おかみさん役は、最初から、樹木さんでいこうと?

亀渕

 はい、樹木さんしか考えていなかったです。簡単には引き受けては下さらないと思っていましたが、「いいわよ」と受けてくださった時に、いい番組になるかもしれないなと思いました。

金田一

 本当に聴くに値する番組になりましたね。樹木さんは神田・神保町のお生まれなんですね。番組の最後におっしゃっていました。

中筋

 それが、私たちスタッフも知らなかったんです。収録の最後の最後に希林さんが、ポツリと「言ってなかったけど、私、神田・神保町の生まれなのよ」とおっしゃって、びっくりしました。

亀渕

 何かご縁を感じてくださってこの番組を引き受けてくださったんだと思います。

ラジオの音を作る

金田一

 ラジオは音がすごく大切ですが、この番組は、クレデンザという蓄音機から流れる音楽もすばらしかったですね。ふくよかさや手作り感を感じました。

亀渕

 そうなんですよ、ラジオってCGとか使えないんです(笑)。だから手作りでコツコツやっていくしかないんですね。ラジオってそこが人間的ですね。

金田一

 三谷幸喜さんの『ラヂオの時間』って映画がありましたよね。波の音作ったり、雨の音作ったり…。ああいう楽しさがありますよね。

亀渕

 一つ音を作るにも、簡単にはできないですからね。『レコード屋のおかみさん』の空襲のゼロ戦の音も、男性4人の「おーおー」と叫ぶ生の声を重ねてできてるんです。

金田一

 いやぁ、いいなぁ。本物の音だったらいいか、っていうとこれがまた違うんですよね。フィクションの方が実はリアリティがあったりする。

亀渕

 この番組は音にこだわりたかったので、僕が思う効果マンNo.1の武田勝美さんに頼みました。今やラジオドラマって、化石みたいなものですよ。今は、効果マンが作るのではなく、ほとんどは音源をレコードから持ってくるんですけど、武田さんは一つ一つきちっと作るんです。

ラジオパーソナリティの影響力

金田一

 最近は、ラジオでもテレビでもなぜか声がみんな同じに聴こえるんですよ、僕。特に、声優さんの若い女性の声がみんな同じに聴こえちゃう。

亀渕

 声優さんも訓練されてるから、みんな同じになっちゃうんだよね。

金田一

 そうそう、アニメ声になっちゃう。それこそ樹木希林さんとか大竹しのぶさんとかは声を聴くと一発でわかるから。あらためてすごいなって。

亀渕

 そうですね。そこいくと、ラジオのローカル番組のパーソナリティの声の力ってすごいんです。彼らは、それぞれの地元で、ものすごいファンを持っていらっしゃる。パーソナリティの方で参議院議員に当選する方多いと思いますよ(笑)。ラジオは、同時性、ローカル性、親密性が特徴で、パーソナリティは同じ目線のお友達なんです。

金田一

 自分に話しかけてくれる気がするんですよね。信頼感がある。

亀渕

 ローカルの午後の番組でパーソナリティが「車のクラクション鳴らしなさい~!」っていったらみんな言うこと聞きますよ(笑)。作家の方がサイン会する時に、テレビで宣伝しても人は来ないけど、ラジオで呼びかけるとたくさん人が来るって。

金田一

 ラジオは影響力ありますよね。テレビに出たって何てことないんだけどね。

亀渕

 それから、今ラジオの通販番組が実はすごいんです。

金田一

 ほう、そうなんですか。

亀渕

 ラジオだから実物は見えないのに、バッグ売ったりダイアモンド売ったりして売り上げがすごいんです。

金田一

 口コミって言うくらいだから口は強いんですね。目で見てもわかんなかったりする。

亀渕

 パーソナリティの彼らが喋ると、ちょっと色が違っても文句言わないらしいんですよね。「あら、私が間違っちゃったんだわ」って思う(笑)。

中筋

 テレビよりラジオ通販の返品率が低いらしいです。僕、営業ですけど、どうして売れるのかなって思いながら番組の枠を売っています(笑)。

亀渕

 ラジオがいち早く通販番組をやり始めて、それが今テレビになってるんですね。CSとかBSとか通販ばっかりになってますよね。また、ラジオが先駆けて次を考えていかないといけないなと思います。パソコンやスマートフォンで聴けるラジオ“radiko”もできましたし、何かやってくれるのではないかと期待しています。

radiko. jpの時代のラジオ

金田一

 ラジオの特徴として同時性、親密性がありますが、この『レコード屋のおかみさん』は違いますよね、作品性があり、独立していて、いつでもどこでもだれでも聴ける。radikoの時代、そういうのが必要だとおもいますね。

亀渕

 ローカル性の中にも、聴く人たちがもっている共通の気持ちがあるんですね。たとえば、この番組のように“戦後の音楽”というくくりでラジオ番組は成立するんです。これがたとえば、『北海道の岩見沢のレコード屋のおかみさん』でもおかみさんがユニークな人だったら、同じように楽しい音楽番組に仕上がると思うんです。

金田一

 ローカルを突き進んでいくと、普遍につながりますよね。今回の番組がそうです。うまく共通項を見つけられれば、みんなの興味を引くような番組が作れるようになると思いますね。ラジオにはそれができるって感じがします。今日は、お話できて楽しかったです。ありがとうございました。

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プロフィール

亀渕 昭信 さん (かめぶち あきのぶ)
1942年北海道生まれ。日本民間放送連盟顧問。ラジオ番組DJ。現在担当の「亀渕昭信のお宝POPS」(火曜会制作)は、全国32局のラジオ局で放送中。関東エリアの方はラジコプレミア厶で聴取可能。著書「オールナイト・ニッポン35年目のリクエスト」(白泉社)、「サラリーマンの力」(集英社インター)など。

中筋 雄介 さん (なかすじ ゆうすけ)
RKB毎日放送東京支社ラジオ部
1984年生まれ。同志社大学卒。2009年RKB入社。本社にて、ラジオ営業3年の後、東京へ異動。現在7年目。 火曜会では、亀渕昭信さんの番組「お宝POPS」 の委員長社として、番組制作・セールスを担当。