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読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2022年10月3日
第48回放送文化基金賞

寄稿

個人・グループ部門 [放送文化]

ローカル局の挑戦! ゴールデン帯でドキュメンタリーを放送
~地域の「今」を切り取る番組 『メッセージ』~

RSK山陽放送 山下 晴海

山下 晴海さん(贈呈式にて)

 RSK山陽放送は2012年4月から水曜日の20時台に1時間の報道系ドキュメンタリー番組『メッセージ』をスタートさせた。ニュースでは伝えきれない地域の「今」に焦点を当てた優れた番組を制作し、ドキュメンタリー枠が深夜帯に多い昨今、ゴールデンタイムにドキュメンタリーを定着させてきた。その取り組みが評価され、個人・グループ部門〔放送文化〕を受賞。RSK山陽放送の山下晴海さんに寄稿していただいた。

ドキュメンタリー番組
『RSK地域スペシャル メッセージ』誕生

 2011年秋。社長に就任して間もない原(現会長)から呼び出しがあった。「ゴールデンタイムで毎週、ドキュメンタリー番組を放送する」。決意に満ちた表情だった。
 ドキュメンタリー番組には制作者の並々ならぬ熱量と時間、コストが費やされている。1年、2年、、、それ以上の時間をかけて一つの番組が出来上がることもある。しかし、放送されるのは深夜帯が主流というのが民放の現状だ。視聴率が売上げに直結する民放にとって、視聴率のとれないドキュメンタリーをゴールデンタイムで放送するのは無理というのが放送界での常識だ。
 原は報道畑の出身、ドキュメンタリー制作の経験もある。「地方に軸足を置いた、地方のための番組を作らなければローカル局の存在意義はない。ドキュメンタリーを少しでも多くの人に見てもらうためにゴールデンタイムで放送する」。
 制作現場からすれば英断と言いたいところだが、営業面や視聴率から考えれば暴走とも言える編成改革だった。

番組テーマと視聴率

 番組名は『RSK地域スペシャル メッセージ』、2012年4月にスタートした。
 毎週水曜日20時から1時間の放送。4人の専属記者(ディレクター)と2人の専属カメラマンが担当し、私も専属記者の一人になった。編集は記者がする。
 ネタのリサーチなど取材準備に1週間、撮影取材は2週間、編集が1週間というタイトなスケジュールで、4人の記者が各々、平均月1本の番組を制作し放送した。海外取材などで労力と時間がかかる場合には、ニュース担当記者に応援してもらう。
 過疎、少子高齢化、老々介護、特殊詐欺、貧困、教育、環境問題など様々なテーマを取り上げた。番組を開始した2012年度は視聴率が平均3.0%。番組の存在が知られるにつれ視聴率も少しずつ伸びた。2018年度は平均5.8%となったが、以降は少し下がっている。視聴率が9%を超えたのは4本。西日本豪雨被害を検証した『岡山豪雨 その時、何が…』、麻薬常習者を取材した『覚せい剤に壊された人生』、『山口組抗争事件を追う』、『世界一のスマイル 渋野日向子』。

西日本豪雨時の倉敷市真備町『岡山豪雨 その時、何が...』(2018年放送)

 タイムリーなテーマを取り上げると視聴率は上がる。しかしにわか仕立ての番組ばかりになれば視聴者に飽きられる。視聴率は気になったが、数字ばかり追うことはやめた。それができたのはスポンサーの支えがあったからである。岡山のIT関連会社「東和ハイシステム」や日本を代表する造船会社「今治造船」など数社のスポンサー企業が「視聴率の良しあしを気にせず、しっかりしたドキュメンタリーを作ってほしい」と理解を示してくれたのだ。大変感謝している。

『覚せい剤に壊された人生』(2016年放送)

制作現場の葛藤と工夫

 番組が始まって、最初に葛藤したのはやはり時間の縛りだった。以前はドキュメンタリーの制作に他局同様、時間をかけてきた。先輩からは「少なくとも四季が一巡しないと人の姿、営み、生業は十分に見えてこない」などと尻を叩かれ取材を積み重ねて番組を作り上げた。しかし『メッセージ』の放送日は毎月容赦なく迫ってくる。放送が終わると「もう少し時間があれば、あれも取材ができたのに、、、」作った番組が消化不良になっていないかがいつも気がかりだった。しかし割り切るしかない。地域の「今」を切り取るという番組の信念に徹した。
 体罰、物流危機、災害、新型コロナなど、大きな社会問題や重要なテーマが現れると次週の番組内容を変えて緊急放送に踏み切った。“来週の水曜日に放送”ということになれば、放送日までに1週間足らずしかない。4人の記者が手分けをして取材にとりかかり、編集も4人で同時並行。一つの番組を一人の記者が作り上げるだけでなく、チームを組んで効率よく番組を作り上げる術も身についた。
 映像祭やコンクールへの出品は制作者にとって大きな励みになる。じっくりと作り上げられた番組より見劣りすると承知の上で出品を続けた。幸運にも入賞という形で評価を頂いた番組もいくつかある。中でも瀬戸内の離島で高齢者の死と向き合う女性看護師を追った『島の命を見つめて』(武田博志記者制作)は国内の映像祭でグランプリを得て、海外でもワールド・メディア・フェスティバルなど4つの賞を頂いた。取材期間は3か月に渡ったが、取材日数は約15日間。取材時間ではなく、地域の「今」をどう捉え、描き出すかが重要であることを学んだ。

『島の命を見つめて~豊島の看護師・うたさん~』(2015年放送)

若手記者の挑戦の場として

 2022年8月末までに240本の番組を放送している。番組開始当初は毎週放送していたが、5年経った頃から少しずつ息切れをし始めた。報道部全体の人員が減って専属記者4人が確保できなくなり、追い討ちをかけるように働き方改革。開始当初の記者4人も管理職などになり現場を離れた。現在は専属記者が1人、あとはネタを掴んだ記者が入れ替わりで番組を制作している。とても毎週放送とはいかない。
 嬉しいのは、『メッセージ』が若手記者のドキュメンタリー挑戦の場となっていることだ。入社3、4年目の記者が『LGBT』や『戦争証言』などの番組を作っている。その若手記者を支えているのは、番組制作の主軸である現場経験豊かなカメラマンたちである。
 番組名の『メッセージ』には、地域の片隅からのメッセージ、制作者から視聴者へのメッセージ、そして現代から未来へのメッセージという意味が込められている。
 この度、放送文化基金賞の受賞は「いまこそ踏ん張れ!」とのエールを頂いたものと肝に銘じて、地方を元気にするためにも『メッセージ』の発信を止めるわけにはいかない。

『RSK地域スペシャル メッセージ』
https://www.rsk.co.jp/tv/message/

プロフィール

山下 晴海 さん (やました はるみ)
RSK山陽放送 報道制作局長
1991年入社、報道部配属。2001年TBSカイロ支局長、中東紛争やイラク戦争などを取材。帰任後、ドキュメンタリー制作やニュース編集長などを担当。ハンセン病問題をテーマにした番組を数多く制作。2012年 『RSK地域スペシャル メッセージ』開始時、チーフディレクター。現在は報道制作局長。