寄稿
個人・グループ部門 [放送技術]
8Kハイスピードカメラの開発
8Kハイスピードカメラ開発グループ(NHK)は、スポーツ中継において滑らかなスローモーション映像を実現する8Kカメラを開発し、個人・グループ部門[放送技術]を受賞した。代表の佐藤真悟さんに、この技術の開発、活用について寄稿していただいた。
1.はじめに
スポーツ中継では、決定的瞬間の選手の動きや一瞬の出来事を滑らかなスローモーションで表現できるハイスピードカメラが活用されています。今回、超高精細の8K映像によるスローモーション映像により、その場にいるような臨場感が得られ、これまでとはまったく異なる映像“体験”を可能とする8Kハイスピードカメラを開発しました。
開発にあたっては、最高峰の映像クオリティーを追及するため、運用テストを繰り返して電圧やパルスなど多岐にわたる撮像センサー部の駆動パラメータを最適化したほか、放送用カメラシステムとして従来と同等の運用性の確保と、8K精度の高度なフォーカシングや放熱対策の両立に苦労しました。
本稿では、開発したカメラシステムの全容と今後の展望を紹介します。
2.ハイスピードカメラとは
ハイスピードカメラとは、撮像素子を通常のフレームレート(60フレーム/秒)よりも速く駆動させて撮影し、収録した映像を通常のフレームレートで再生させることで、「コマ送り」では表現できない滑らかなスロー再生を可能にするシステムです。
3.開発の背景
スポーツ中継番組は8K放送のキラーコンテンツの一つであり、番組中のスローモーション映像はアスリートの躍動感や、試合の決定的な瞬間を鮮明に捉える演出として必要不可欠です。従来の8Kスポーツ中継では4Kハイスピードカメラで撮影した映像を8K解像度にアップコンバートして利用していましたが、東京五輪での8K制作の決定を機に、NHK放送技術研究所が中心となり2016年に8Kハイスピードカメラの開発に着手しました。
4.開発のポイント
4-1. 毎秒240フレーム撮影できるイメージセンサー
通常のスポーツ中継でよく使用される3倍速撮影を目安に、通常の8Kカメラの4倍にあたる240フレームの高速撮像を目標としました。この実現には、ハイビジョンカメラの128倍の速度でセンサーを駆動する必要があるため、画素読出し線の2重化とアナログ・デジタル変換回路の多段接続によるパイプライン動作を活用した高速化技術を開発しました。
イメージセンサーの光学サイズは、レンズの互換性を考慮して既存の8Kカメラと同じ1.25インチとし、8Kフル解像度の有効画素数を有しています。
4-2. 高速光伝送を実現するカメラシステム
カメラヘッドから出力される8K-240フレームの非圧縮信号は、光複合ケーブル2本でCCU(Camera Control Unit)に伝送して信号処理を行います。CCUからは、8K-240フレームのハイスピード信号(U-SDIx2信号)と8K-60フレームのライブ信号(12G SDIx4)の同時出力が可能です。以下に特長を示します。
・スポーツ中継カメラシステムの運用が可能なコンパクトな設計
・4K解像度ビューファインダーによるフォーカス操作
・8K箱型高倍率レンズに対応したレンズサポーターの装備
・SMPTE規格の光複合ケーブルによる信号伝送と電源供給
4-3. リアルタイムリプレイを行うスロー再生装置
CCUから出力されるハイスピード信号を記録し、コントローラを用いたスロー再生ができます。
・8K-240フレームの映像を4時間連続でループ収録
・記録と同時に8K-60フレームのスローモーション再生
・記録用SSDを並列化することによる冗長性の確保と転送速度の向上
・従来のスロー再生装置の操作性・機能を踏襲(Tバーによる可変速再生・クリップ管理ほか)
4-4. 運用実績
東京五輪では陸上や水泳などをはじめ多数の競技でフル稼働し、歴史的瞬間の映像を多く残すことができました。またラグビーワールドカップやフィギュアスケートなど、多くのスポーツ番組制作で活用されています。
5.まとめ
8Kの超高精細映像による滑らかなスローモーションを実現するカメラを開発しました。
今後はオートフォーカスの導入や8倍速撮影など、新たな機能を追加して運用性向上を図っていくほか、撮影した8K映像から任意の部分を切り出した映像をハイビジョン放送で活用することも検討していきます。
8Kはその超高精細映像の特性を生かし、科学、医療など他分野における活躍も期待されています。今後も開発現場と運用現場が一体となり、視聴者に様々な感動をお届けできるコンテンツを提供していきます。
プロフィール
佐藤 真悟 さん (さとう しんご)
NHK 技術局 開発センター
2011年、早稲田大学基幹理工学部 表現工学科卒業。同年、NHKに入社。北九州放送局でVE業務を務め、2015年に技術局へ異動。8Kカメラの開発やIPスタジオの設計業務を務める。