寄稿
放送文化
『笑味ちゃん天気予報』10年で伝えたこと
『笑味ちゃん天気予報』(月~金曜 午後6:50~)は、農業産出額が中四国地方でナンバー1を誇る岡山県から農家と一緒に届ける天気予報。2014年4月に“農業を元気に”“農家を元気に”“地域を元気に”を目的にスタートし10周年を迎えた。農家にとって大事な天気の情報とあわせて、地域全体で農業を盛り上げようと奮闘している。RSK山陽放送の髙畑誠さんに、番組を始めたきっかけやこれからについて寄稿していただいた。
農家と一緒に届ける天気予報
だれもがテーマ曲を口ずさむことができた夕方の天気予報『ヤン坊マー坊天気予報』の放送が翌年の3月に終わろうとしていた2013年の暮れ。社内でこの番組に代わる「毎日10分間の農業と天気予報の番組」ができないかという話が持ち上がりました。気象予報士の資格を持つ私は、天気予報には自信がありましたが、農業に毎日話題があるのか少々不安でした。番組スタート時の専任制作スタッフはディレクター、女性アナウンサー、私の3人。ディレクターや女性アナがカメラマンと取材に行くだけでなく、私もひとりでデジカメを持って取材に出かけました。たった3人で!と思うかもしれませんが、農業の話題を提案してくれる協力者の人たちがいました。JAグループ岡山各地の広報担当の人たちです。この人たちの協力があったからこそ、毎日、農業の話題を届けることができました。旬の農産物は勿論、新たに農業を始めた人、次の担い手、更に農産物の料理や加工品を作る女性部の活動等、話題は幅広く私の不安は一気に吹き飛びました。
「普段」の農業の元気を届ける
番組を始めるまで私が農業を取材するのは、桃やブドウの初収穫や台風・日照りの被害等、いわゆる“ニュースになる”時だけでした。番組を始めて気付いたのは、今まで普段の農業を見ていなかった、ということです。「あんたら、悪いときばかり取材して普通のときにも来てくれんと」と言われてしまうのも納得です。近年、とかく日本の農業はピンチだ、元気がないと思われがちですが、取材すると普段の農家はみんな元気!
毎週、新規就農者を紹介するコーナーがあります。定年退職して「若手」として生産者の仲間入りをした人、お笑い芸人の夢を諦めて就農した人、自分の娘に障害があり娘の働く場を作りたいと農福連携の法人を立ち上げた人等バイタリティー溢れる人が多く、どれも一つのドキュメンタリーになるようなエピソードばかりなのです。
名物コーナー「ふるさとリポート」
視聴者から天気にまつわる写真を募集、番組内で紹介しようと始めた「ふるさとリポート」というコーナーがあります。当初は、空の様子や花や虫の写真を送ってもらい、それについてスタジオでいろいろと話そう、そんな発想でした。 ところが、送られてくる写真は都市部では見られなくなった風習や年中行事などのものも多く、農業と地域が密接に繋がっていることを改めて感じるものでした。特に盛り上がったのは正月のお雑煮の写真。各地から正月の写真が届く中で雑煮の具の違いが実に楽しいのです。よく西日本と東日本の差で語られるお餅は、丸餅と角餅、豆餅、あん餅等、岡山県内でもその土地の歴史で違ったり、父母の里の雑煮が両方合わさって独自の変化を遂げていたりと様々です。他の具についても、我が家はほうれん草と鶏肉、ブリですが、ハマグリやエビの他アユや豆腐、海沿いでは牡蠣を入れている地域もありました。また、放送エリアの香川県では白みそのあん餅雑煮と、豊かな食文化を伝えることになりました。「ふるさと」の風景を届ける私の大好きなコーナーです。
ピンチを乗り越えて
新型コロナと西日本豪雨の時は大変でした。新型コロナの時は人と会う取材を控えるようになりましたが、天気予報であるこの番組は続けなければいけません。畑は屋外で換気は十分なので、ソーシャルディスタンスをとりながら、生産者を撮影する取材が続きました。また、料理の取材はNGなので、ならばとJAの活動の中の健康体操を収録し、ステイホームの運動不足解消に貢献するなど、知恵を出しながら自粛ムードの期間を乗り越えました。また、当時はマスクをつけたままの取材で生産者の表情が見えなかったので、とびきりの笑顔を写真撮影し映像の後に紹介する、というのが好評で、コロナ禍が収まった今も続いています。
2018年の西日本豪雨では、田んぼや畑は勿論、生産者の家屋や選果場、JAの施設も浸水。現場に行く道路も通行止めとなり取材どころではありませんでした。天気予報を担当していた私は「大雨の危険をもっと伝えることができなかったか」と悩み、落ち込み、辛い状況でした。そんな時、これまで取材してきた生産者の皆さんの顔が浮かび連絡すると、もう前に向かっているではありませんか。水が引いたパクチー畑から小さな芽が出て「希望のパクチーですわ」と笑顔を見せてくれ、農家の力強さを感じました。
農業、農家、地域の元気をこれからも
『ヤン坊マー坊天気予報』に代わる番組として始まったこの番組。ある取材に出向いた小学校で男子児童が「あ、笑味ちゃん天気予報だ」と叫び、それがきっかけとなり「♪太陽さんさん 雨うるるん・・・」とテーマ曲を歌い始めました。最後は教室全体に響く大合唱となり、あの“ヤン坊マー坊”のようにすっかり天気予報のテーマ曲として定着したなとうれしくなりました。その後、テーマ曲にダンスを付け(おじさんでも踊れるように私が振り付けを考案)、子どもだけでなく、生産者からJA職員、自治体の首長まで、踊っている映像を番組のオープニングで流しています。現在は、女性リポーター2人と気象予報士が出演、ディレクターを加えた4人を中心に制作しています。「農業を元気に、農家を元気に、地域を元気に」とスタートした番組ですが、こちらが元気をもらって続いてきた10年でした。10年といっても通過点、休むわけにはいきません。まだまだ日本の農業は元気だ!取り上げるものはたくさんあるぞ、そんなエールを送っていただいたと思い、今日も農業の元気を画面から届けています。
『笑味ちゃん天気予報』
https://www.rsk.co.jp/tv/emichan/
YouTube
https://www.youtube.com/@emichanweather
プロフィール
髙畑 誠 さん (たかはた まこと)
RSK山陽放送 報道制作局 社会情報部長
1996年入社。キャスター・気象予報士。夕方の情報番組のキャスターをはじめ、
ニュースで気象情報や災害報道を担当。
2014年に始まった『笑味ちゃん天気予報』は当初から関わる。
21年に報道部長、24年から社会情報部長。
著書に「これがマコトの気象ばなし~天気予報を変える!~」(成山堂書店)