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読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2024年10月24日
第50回放送文化基金賞

対談

エンターテインメント [最優秀賞]

どんな道にも未知の物語

横山 公典 × 丹羽 美之

 『歩道・車道バラエティ 道との遭遇』(CBCテレビ)が、エンターテインメント部門最優秀賞を受賞した。この番組は、日本全国にある総距離約128万kmの中から珍しい道だけを紹介する、「道」に特化したバラエティ番組である。作られた理由が分からない謎の道、国道にもかかわらず乗用車での通行が困難な「酷道」、今はもう使用されず荒れ果ててしまった「廃道」など、知られざる道の魅力を道マニアとともに巡っていく。
 放送はもちろん、TVerやYouTubeなどの配信も好調で、イベントを開催すれば全国から番組ファンが集まるほどの人気番組だ。
 丹羽美之委員長がプロデューサーの横山公典さんに番組作りの裏側を聞いた。

丹羽 美之 さん(にわ よしゆき)
エンターテインメント部門審査委員長

横山 公典さん(よこやま きみのり)
CBCテレビ コンテンツデザイン局
IPプロデュース部 プロデューサー

道が見えた日

丹羽

 最優秀賞おめでとうございます。

横山

 ありがとうございます。

丹羽

 受賞の知らせを聞いた時は、いかがでしたか。

横山

 編成を通じて受賞の一報をもらったのですが、誰にも言わず自分の中で2時間くらい留めておきました(笑)。JNN系列の中で賞を頂いたことはあったのですが、他の民放やNHKなどを含めた中での最優秀賞が信じられなくて。その後も連絡をもらううちに、やっぱり間違いじゃないんだと思って本当に嬉しかったです。スタッフにも知らせて、みんなで喜びました。

丹羽

 スタジオMCのミキさんが、受賞を聞いて驚いている動画がSNSで上がっていました。

横山

 SNS用に撮影しようと、ミキさんにスタジオ収録に来てもらった際に初めて伝えましたが、とても喜んでくれました。道マニアさんとスタッフが頑張っていることもよく分かってくれているので、「本当によかったですね」と言ってもらえました。

丹羽

 たしかに、この番組の最大の功労者は道マニアと呼ばれる方々かもしれません。番組では彼らが案内人となって、さまざまな道を紹介していきますが、そもそもなぜ道だけで番組を作ろうと思ったのですか。

横山

 ここ5年私が担当した番組が終わってしまうことが多くて、普通のことをやっていても、もう無理だなと感じていました。喫茶店で制作会社のプロデューサーと「中途半端にならず、振り切りたいよね」と企画を出し合っていく中で、道に特化してみようかという話になりました。衣食住以外で誰もが毎日接しているのが道ですし、文化や歴史など切り取り方次第で面白くなるかなと思ったので。

丹羽

 企画を出した時の社内の反応はいかがでしたか。

横山

 「1回やってみたらいいんじゃないか」くらいの軽い感じでしたね。社内にも、振り切った面白いことをやってほしいという思いはあったかもしれません。

丹羽

 それでも、やはり道だけで番組が成立するかどうか不安になりそうですが。

横山

 ただの道紹介になっても面白くないなと思っていたので、不安はありましたね。ただ、道に関する資料をいろいろと探していくうちに、道が大好きな方々がたくさんいて、その界隈で有名な道マニアさんもすぐに分かりました。彼らが個性的で面白そうだったので、なんとかなるかなと思えるようにはなっていきました。

道マニアの本領

丹羽

 道マニア界のレジェンド・鹿取茂雄さんや「廃道」専門の石井あつこさんは、今回の受賞作でもいい味を出していましたね。番組を見ていて面白かったのは、三重県にある「謎のロータリー」を調査してほしいという依頼が番組ではなく、鹿取さんに直接届いたことです。結局ロケでは、なぜそこにロータリーがあるのか分からず、その後の調査も鹿取さん自身で行っていました。道マニアの方々に調査もお願いするという形は、最初から決めていたのですか。

横山

 はい。こちらがあれこれ言って台本通りに動いてもらうより、道マニアさんが普段していることをそのままカメラで追いかけたほうが、彼らの素も出て面白いんじゃないかという狙いがありました。彼らは人にも道にも誠実で、文献等でしっかり調査してくれるので、いい信頼関係が築けていると思います。

三重県にある「謎のロータリー」

丹羽

 番組として下調べ、ロケハンなどは行いますか。

横山

 ロケハンはほとんどしませんね。下調べも撮影許可が必要な場所か、危険でないかは事前に調べておく必要がありますが、道の成立が何年でといった歴史まで調べることはありませんね。

丹羽

 その作り方が、NHKの『ブラタモリ』とは真逆のアプローチだと思いました。『ブラタモリ』ではスタッフが事前に徹底的に調査して、タモリさんが専門家の解説を聞きながら地形や歴史の理解を深めていく面白さがある。

横山

 そうですね。もちろんロケが終わった後に裏取りはきちんと行っていますが、番組の一番のポイントは、道マニアさんの聞き込み調査だと思っています。道マニアさんが通りすがりの地元の人たちに尋ねていくと、道の歴史にたどり着けることも多いですし、予期しない答えが返ってくることもある。そのやり取りが番組の軸になっていますね。

丹羽

 「謎のロータリー」では、鹿取さんが、夜の雪道で偶然出会った人に「こんな時間に四駆で何をしに来たんですか」と尋ねる場面がありましたよね。

横山

 なぜあんな雪の山道を走っているのかと思いますよね。答えを用意していないからこそ、あの1分間の楽しいやり取りが生まれたと思います。

丹羽

 ちなみに、いくら調査しても答えが出なかった回もありましたか。

横山

 ありましたね。ただ「何も分からなかった」という結果をネタにすればいいと腹をくくっていました。台本を用意して緻密に構築したバラエティも面白さの一つではありますが、先が見えている展開に限界を感じていたので、道マニアさんの調査だけで終わっても、それはそれで面白いのかなと思います。

「道のお供」になりたくて

丹羽

 道マニアの調査に同行する「道のお供」の選び方も面白いです。通常のロケ番組ではタレントやアナウンサーをレポーター役にすることが多いですが、あえて柿ピー研究家やオーケストラの指揮者といったマニアックな方を起用しています。

横山

 予算の問題もありましたが、本当にいろいろな道があるので、テレビ的な決まりきったリアクションでは、つまらないかなと思いました。何かに対してマニアックな方は、独自の視点でコメントできる一方で、視聴者に近い素朴なリアクションもできる。道中で疑問に思ったら積極的に質問してもらって、興味がなかったら、そのまま感情を出してもらうようにしています。マニアの方を「道のお供」にすることで、道マニアの変態ぶりをより際立たせたかったです。

廃道を前にしてコメントする石井あつこさん(右)

丹羽

 オケの指揮者は、番組宛てにファンレターを出したことがきっかけで出演が決まったとのことでしたが、本当に一般の方でも「道のお供」として出演できるんですか。

横山

 「番組ファンの父を、定年祝いのサプライズで出演させてくれませんか」という依頼が娘さんから来たことがありました。ロケ当日に「お父さん、今から行きましょう」と同行してもらいました。そこはバラエティとしての遊びの要素もありますね。

丹羽

 なんだか気軽に出演できてしまいそうな雰囲気が面白いですね。先ほどの「謎のロータリー」も視聴者が調べてほしいと鹿取さんにDMを送ったところから番組が始まっていました。いろいろな角度から番組に入り込んでいける隙間があるのも、この番組の魅力ですね。

横山

 番組へのハードルを下げて、視聴者を巻き込んでいくことはローカル局にとって大事なことだと思っています。その一環でファンイベントも開催していますが、ありがたいことに予約がすぐにいっぱいになります。全国的な番販や、TVerやYouTube配信のおかげで、東海地方以外の人たちも、じわじわとファンになってくれているのかなと思いますね。

丹羽

 イベントでは、どんなことをするのですか。

横山

 番組の公開収録や取材中の裏話を道マニアさんに語ってもらっています。さらに会場に集まってくれたファンのみなさんには、「道のお供」出演枠をかけたじゃんけん大会や鹿取さんの愛車であるソニカ撮影会も開催しています。

丹羽

 ファンにはたまらない企画ばかりですね。

横山

 この番組が「私たちの番組だぞ」っていう愛やプライドみたいなものを持ってもらえるようにしたいんですよね。番組やイベントを通して、何か発信してくれたらいいなと思っています。

丹羽

 MCのミキさんの愛のあるツッコミも、視聴者の感情をぐっと引き上げるのに一役買っています。「理由のない道はない」というコメントも印象的でした。彼らにMCをお願いしたのはなぜですか。

横山

 もともと仕事を一緒にしていたことがあったので、道マニアさんに対してフラットかつリスペクトのあるツッコミをしてくれるだろうと思って起用しました。道(みち)とミキ、音も似ていたので(笑)。

ローカルバラエティだからこそ

丹羽

 今回、エンターテインメント部門では、初めて地方の民放局が受賞を独占しました。ローカルバラエティの強みはどんなところにあるとお考えですか。

横山

 振り切った企画で勝負できる制作環境が、まだまだあることかなと思いますね。制作した番組を、TVerやYouTubeで配信できるようになったことも追い風かなと思います。

丹羽

 空振りしてもいい雰囲気が社内にあれば、いつか今回のようにホームランを打つこともできるわけですよね。一方で、課題についてはどう思われますか。

横山

 報道や情報番組に比べて、お金をかけてローカルでバラエティを作る意義をどう見い出すのかが難しいですね。もちろん、視聴者に面白いと思ってもらえる番組を作ることは当然ですが、キー局が制作した番組を流すこともできてしまう。地方局の制作環境は厳しくなるばかりなので、より作る意義が求められている気がしています。

丹羽

 たしかに、報道で日々起きていることや情報番組で新しくできたお店やイベントを伝えることは大事かもしれません。しかし、この番組を見て、バラエティの手法だからこそ掘り下げられる地域の魅力があると思いました。道の背後には私たちがあっと驚くような未知の物語がまだまだたくさんありそうですね。本日は、ありがとうございました。

横山

 そう言っていただけると嬉しいです。今後も地域の人たちに面白く思ってもらえるような番組を作り続けていきたいです。ありがとうございました。

『歩道・車道バラエティ 道との遭遇』(CBCテレビ)』は、毎週火曜よる11:56~放送中

TVerでも見逃し配信中▶https://tver.jp/series/sr4jyby1u3

受賞番組▶https://www.youtube.com/watch?v=IicRCsLZmxE

受賞報告時のミキの様子▶https://www.youtube.com/watch?v=AE97uQ3FYiU

プロフィール

横山 公典 さん(よこやま きみのり)
CBCテレビ コンテンツデザイン局 IPプロデュース部 プロデューサー
1982年生まれ。三重県出身。2005年CBCに入社。番組制作のディレクター・演出を経て2015年からプロデユーサーに。過去に、『本能Z』『メイプル超音楽』『健康カプセル!ゲンキの時間』などを担当。

丹羽 美之 さん(にわ よしゆき)
エンターテインメント部門審査委員長
1974年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門はメディア研究、ジャーナリズム研究、ポピュラー文化研究。主な著書に『日本のテレビ・ドキュメンタリー』、『NNNドキュメント・クロニクル:1970-2019』、『記録映画アーカイブ・シリーズ(全3巻)』(いずれも東京大学出版会)などがある。