インタビュー
第41回「日本賞」教育コンテンツ国際コンクール【企画部門】 最優秀賞企画
『ミーアキャットの冒険』受賞リポート
NHKが主催する第41回「日本賞」教育コンテンツ国際コンクールが開催され、当基金が賞金のスポンサーとして参加する企画部門には、17の国・地域の 32機関から、43企画の応募がありました。この部門は、予算や機材などの条件が十分でないために番組制作が困難な国・地域の放送局や制作プロダクションなどの、優秀なテレビ番組企画を表彰し、番組として完成させることを目的としています。
最終選考に残った5つの企画から、プレゼンテーション審査を経て最優秀企画に選ばれたのは、ナミビア放送協会(ナミビア)のグリニス・ビアケス・カパさんの企画 『ミーアキャットの冒険』。10月21日に開催された授賞式で、塩野宏理事長からカパさんに、「放送文化基金賞」として賞牌、賞金8000ドルが贈られました。
『ミーアキャットの冒険』は、冒険好きのアニメキャラクター、ミーアキャットが、砂漠、サバンナ、海岸 地帯などアフリカ各地を旅し、さまざまな動物と出会う物語を通して就学前の子どもたちに英語に触れる機会を提供する教育番組の企画です。
受賞したグリニス・ビアケス・カパさんに、授賞式の後でお話を伺いました。
― なぜ、幼児向けの英語教育番組を作ろうと考えたのですか。
ナミビアの公用語は英語ですが、農村地域では13の異なる言語を話します。子どもたちは小学校に入学すると同時に、突然英語の授業を受けることになるのです。私の姉が、小学校低学年の教師をしていて、6歳児にとってはこれがかなりの試練だという話を毎年のように聞いていました。そこで、テレビ局で仕事をしている私にも何か出来るのではないかと思いました。
また、私自身にも4人の子どもたちがいます。年齢は、3歳、6歳、11歳、15歳です。彼らが面白いと思うような番組を作りたいといつも思っていますし、彼らの意見を取り入れることもあります。
― 番組の主人公はどうしてミーアキャットなのですか。
ミーアキャットは、アフリカ南部の乾燥地域に生息していて、ナミビアの子どもたちにとても人気がある動物です。ミーアキャットは、子どもたちと同様に、小さな体をいつも活発に動かして何かを学ぼうとしているように見えます。それが、この番組のナビゲーターにぴったりだと思いました。
ナミビアでは、雨が降るのは1年のうち2ヵ月ぐらいで、年間を通して大変乾燥しています。首都でも、朝起きたときミーアキャットを見かけることがあるんですよ。
― どんなスタイルの番組になるのでしょう。
子どもたちはアニメが大好きなので、26分のアニメ番組にする予定です。
実は、アニメについて学ぶことも日本に来た理由の1つなんです。私たちはアニメ制作に精通していないので、日本で良い助言がいただければと思っています。日本のアニメは素晴らしく、私の子どもたちは、『NARUTO-ナルト-』や『BLEACH(ブリーチ)』の大ファンです。ミーアキャットをアニメで登場させれば、子どもたちにとって、とても楽しい番組になるでしょう。
― 具体的に、子どもたちに何を学んでほしいと考えていますか。
まず、英語のアルファベット、数字、色、形を楽しく学ばせます。たとえば、動物を使ってアルファベットを教えたいんです。「AppleのA」ではなく、「Aardvark(ツチブタ)のA」という教え方で、マングース、ミーアキャットなどを使えば、子供たちは、身近な動物を連想しながらアルファベットを覚えることができます。
また、子どもたちはそれぞれ異なる文化の中で育っているので、基本的な英語のエチケットも学びます。例えば、玩具を手にするときは、英語で “Please”、“Thank you”と言わなければならない、というようなことです。
その上で、子どもたちが、「嬉しい」「悲しい」など、自分の気持ちを英語で話せるように、そして子どもたち同士英語で会話できるようにしてあげたいと思います。
― 番組の放送の方法、予定について教えてください。
3つの媒体を考えています。まず、ナミビア放送協会(NBC)のテレビチャンネルで、この年齢層向け番組枠の午後2~3時に放送します。また、国のどの地域であってもラジオの電波は届きますし、NBCラジオには語学番組があるので、ラジオ放送も活用します。さらに、DVDを作成してテレビの電波が届かない小さな村々にまで配布すれば、教師の工夫次第でラジオとDVDを併用しながら子どもたちに教えることができます。
― これまで、どのようなお仕事をされてきたのですか。
以前は、フリーランスで映画制作に携わっていました。ナミビアの砂漠では年に1~2回、ハリウッド映画のロケが行われるので、そのプロダクション・マネージャーをしていました。しかし、自分の子どもを含め、子どもたちのためになる仕事がしたいと考え、2009年にNBCに入局しました。大学で政治学を専攻したため、最初に手掛けたのは政治ドキュメンタリーでした。ドキュメンタリーを通じて、政治や社会の問題、政府はちゃんと仕事をしているのかなどを視聴者に伝えました。その後、2週間ほどスウェーデンのテレビ局の教育番組部門で研修を受ける機会に恵まれたことをきっかけに、子ども向け番組の制作に関わったとき、「これこそ私のやりたい仕事」だと思い、教育番組を制作することになりました。
とはいえ、ずっと少人数のチームで作業を進めているので、一度に全ての年齢層をカバーすることはできません。まず6~12歳向けの番組からスタートし、次に、対象年齢を18~25歳に上げて、若者向けのビジネスに役立つ番組を制作しました。さらに今年は、10代向けの、特に13~15歳が直面する問題を扱った番組をつくりました。そして今回、3~5歳向けの番組に取り組むことになりました。一度に全て制作することは不可能なので、スポンサーによる資金などを調整しながら、少しずつ制作を続けているというのが現状です。
― 今回、企画部門のファイナリストたちはプレゼンテーションに向けてワークショップに参加したと聞きました。他の人のプレゼンテーションなどからどんな刺激を受けましたか?
プレゼンの前日に、お互いのリハーサルを見る機会がありました。自分たちのプロジェクトが認められるのか不安に思いながら他の方々のプレゼンを聞くと、そちらの方が重要な問題なんじゃないかと思えてくるんですよ(笑)。貧困にあえぐネパールの子どもの話や、一年中水害に苦しむフィリピンの子どもたちの話、自然とのつながりを見出そうとするボスニアの子どもたち、さらに、昔の話など知らないアフリカの今の子どもたちに向けて植民地時代以前のアフリカの歴史を教えること、どれもとても重要に思えましたし、とても刺激を受けました。他の参加者の方々とはできる限り交流を図りましたし、競争相手というより、友だちになりました。
― ワークショップの講師からはどんな助言を受けましたか?それによって、プレゼンテーションは変わりましたか?
話のスピードはとても良いけれど、「組立てを見直しなさい。こう考えてはどうですか」との助言を受けました。「こうしろ」という指導ではなく、「こうしてみたらもっと良くなるかもしれないので、考えてみて。どうするのか決めるのはあなたです」というアプローチでした。5人のプレゼンター全員にとって、講師からの助言はとても重要でした。私のプレゼンについては、全体的な構成は変えませんでしたが、助言を受けて、最後にするつもりだったミーアキャットの説明を最初に持ってくることにしました。こうすることによって、その後の説明がとても分かりやすくなりました。「なぜ日本に来たのか。何をしたくて、なぜ祖国でお金が必要なのかを審査員に伝えなさい。そうすれば彼らはあなたに何が必要なのかを理解し、あなたの企画は素晴らしいと納得してくれる」と助言を受けました。その言葉にとても助けられました。
― そして、実際に審査員を納得させることができたわけですね。本当におめでとうございます。作品の完成を楽しみにしています。ありがとうございました。
日本賞企画部門特集
昨年、日本賞企画部門 最優秀賞/放送文化基金賞を受賞した『ミーアキャットの冒険』が番組として完成し、2015年第42回日本賞の同コンクール期間中に番組が上映されました。放送文化基金は、来日した受賞者のグリニス・ビアケス・カパさん(ナミビア放送協会)に番組完成についてインタビューしました。
『ミーアキャットの冒険』番組完成インタビューはこちら!