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HOME読む・楽しむ『命 ~自殺を止めるために』受賞リポート   エルケ・フランケ

読む・楽しむ 日本賞企画部門特集
日本賞の企画部門の最優秀賞/放送文化基金賞の受賞者へのインタビューを掲載します。

2018年12月21日

インタビュー

第45回「日本賞」教育コンテンツ国際コンクール【企画部門】 最優秀賞企画

『命 ~自殺を止めるために』 受賞リポート

エルケ・フランケ さん

 NHKが主催する第45回「日本賞」教育コンテンツ国際コンクールの各受賞作品が11月9日、東京で発表・表彰されました。企画部門には、18の国・地域から34企画の応募があり、最終選考に残った5企画の中から、メキシコの“命 ~自殺を止めるために”(機関名:ビエントス・カルチュラーレス)が最優秀企画に選ばれ、放送文化基金賞(賞金10,000ドル)を受賞しました。
 企画部門は、予算や機材などの条件が十分でないために番組制作が困難な国・地域の放送局や制作プロダクションなどの優秀なテレビ番組企画を表彰し、番組として完成させることを目的としています。

 今回最優秀賞に輝いた企画は、若者の自殺未遂が増加しているメキシコ南部の貧しい先住民コミュニティで、「アートの活動によって」状況を変えようと意欲を燃やす10代の青年、エリックの姿を追うドキュメンタリーです。

 授賞式では、恵まれない子供と若者に焦点を当てたテレビコンテンツを制作するNGO、ビエントス・カルチュラーレスのエグゼクティブ・プロデューサー、エルケ・フランケさんに、放送文化基金の末松安晴理事長よりトロフィーが贈られました。

授賞式で、フランケさんにお話を伺いました。

Elke Franke(エルケ・フランケ)さんへのインタビュー

Q)どんなきっかけで、このドキュメンタリーを制作しようと思ったのですか?

E) 私たちはメキシコで子供のためのニュースを放送しています。昨年、先住民地域で自殺未遂が増加しているという話を聞いたため、このサンアンドレス・ララインサル村(メキシコ南部チアパス州)で取材を行いました。地元の学校を訪ね、3人の若者にインタビューしたところ、全員が自殺に関わるなんらかの経験をしているという衝撃的な事実を知りました。一人は自殺未遂の一歩手前の状態にあり、一人は実際に命を断とうとしたことがあり、もう一人は、このドキュメンタリーの主人公エリックですが、自殺によって親友を失くしました。
 また、アルフレドという自殺を図ったものの一命をとりとめた若者にもインタビューしました。ラッパーの彼は、そのときの気持ちを歌ってくれました。私たちはその様子を撮影しましたが、その数か月後、彼は薬物中毒の若者によって殺害されたと聞きました。
 このような事態を受けて、この状況を変えるには何ができるだろうと考えました。メキシコでは、子供の問題に関する調査や研究は盛んですが、状況を変えるための対策はあまりとられていません。そこで、この問題について真剣に考え始めました。
 このプロジェクトには、地方自治体やメディアだけでなく、この村に変化を起こしたいという意欲を持つエリックという若者が関わっています。プロジェクトとして日本賞で提案してみようと応募したところ、幸運なことに選ばれ、メキシコでは覆い隠されているこの問題についてプレゼンテーションし、考えを率直に話す機会を得ました。

Q)エリックとはどのように知り合ったのですか?

E) 私たちのプロデューサーは、サンアンドレス・ララインサル村で生まれたので、地元の人々とのつながりがありますが、エリックとはニュース取材のインタビューで知り合いになり、その後スカイプで連絡を取り合いました。彼は、私たちが日本賞でプレゼンテーションすることを知っていて、結果を待っています。後で電話してみます。

Q)この番組の制作方法について教えてください。

E) ドキュメンタリーは実生活についての話ですが、日本賞で受賞してカメラ撮影するとなると、エリックは、ますますやる気になるでしょう。
 来年1月に計画を開始しますが、エリックは4月に催される村の祭で何かやろうと考えています。制作では、まず「証拠と事実」を把握します。自殺問題と関係のある人々へのインタビューを実施し、ドキュメンタリーに加えます。次に、村祭への参加に至るまでのエリックの全てのアート企画を追います。ビジュアル・アートを含むかなり多くのアート作品も併せて出てくると思います。ドキュメンタリーの狙いは、自殺のテーマを通じて命について考えさせることです。エリックはこの物語の主人公ですが、命も主人公です。そして、それと敵対するのが自殺です。

Q)基本的な質問ですが、子供たちはなぜ自殺しようとするのですか?

E) 私たちが行ったインタビューによると、メキシコのチアパス州の高原地域では、その原因は世代間のコミュニケーション・ギャップです。自殺は日本でも多いそうですが、私たちの国の原因は日本とは異なります。メキシコの先住民コミュニティには、世代間のコミュニケーション・ギャップがあり、さらに、若者たちには気持ちを伝える能力がなく、問題を口に出さないことがわかりました。アートは、どのように気持ちを表現し、伝え、他の人々と共有すればよいのか、若者たちに教えてくれるすばらしいツールになるでしょう。自殺する若者のほとんどは、自分の問題のことを他人に話しませんから。

Q)彼らはみんな先住民コミュニティの出身ですよね。彼らの考えるアートは先住民志向ですか?

E) いいえ、面白いことにそうではありません。先住民コミュニティの若者は、Facebook、WhatsApp(ワッツアップ)、YouTubeなどのソーシャルメディアを利用しています。モダンアート、ロック、モダンなダンスや絵画への志向が強いです。でも、そのようなソーシャルメディアを利用することで、自分たちのルーツとの結びつきを再認識するようです。

Q)教育の問題はありますか?

E) はい。先住民コミュニティと都市コミュニティでは教育の質に大きな差があり、この点も非常に大きな問題です。親との関係を断った後、若者達は、教育レベルが極めて低いため、あまり多くの機会に恵まれないことにすぐに気がつきます。
 また、今なお先住民コミュニティに対するひどい差別が残っています。若者たちにとってスペイン語は第二言語なので、コミュニティの外で話し方をからかわれることもあります。今でも、差別の問題に苦しんでいます。

Q)フランケさんの経歴について伺います。プロデューサーの仕事以外にも、ニュース報道などをなさっていますね。ジャーナリストやプロダクションの仕事は、どのようにスタートさせましたか?

E) 面白い話ですが、私のバックグラウンドはNGOでの仕事です。1995年にメキシコにやって来て、子供と若者のためのアート・ワークショップ・プロジェクトを始めました。その後、人形(パペット)をつくる会社になり、10年前からテレビ放送を手掛けることになりました。最初はフィクション・シリーズを制作していましたが、少しずつノンフィクションに移行しました。傷ついている子供たちを取り上げる番組が、ほとんどないことに気がついたからです。こうしてノンフィクション・シリーズをさらに多く制作するようになり、2年前から子供のためのニュース放送を実施しています。

Q)では、テレビ番組を制作する仕事は現在の組織で始めたのですか?

E) はい。2008年から始めたので10年になります。日本賞のおかげですばらしい10年記念となりました。

Q)現在の仕事はプロデューサーですか?

E) はい。ビエントス・カルチュラーレスでは、エグゼクティブ・プロデューサーです。私個人でも、インタビューなどさまざまな仕事を行っていますが、主に、撮影前の作業(プレプロダクション)、計画、撮影後(ポストプロダクション)の作業に関わっています。それでも、いつでもコミュニティーに赴くことができます。

Q)メキシコの放送事情について伺います。テレビ・ラジオ放送局、ケーブル、衛星放送などいくつありますか?

E) メキシコには国営テレビネットワークがあり、ほとんど全ての州に公共テレビ放送局があります。全国放送チャンネルには、チャンネル11、チャンネル22、そして新しいSPRがあります。また、子供や若者向けの教育テレビ番組制作もありますが、これは現在のメキシコでは危機的な状況で、この6年間あまり発展しませんでした。最近政権交代があったので、低迷している子供と若者向け制作の状況が改善されるよう願っています。

Q)民放テレビチャンネルもありますか?

E) はい。非常に強力な民放テレビチャンネルがあり、競争は熾烈です。テレビサ、TV アステカの他、ケーブルテレビもあります。ただ、人々の間では、ローカルコンテンツを放送する公共テレビの人気が高いです。

Q)制作する番組は、どのような方法で人々に幅広く見てもらいますか?

E) 方法は2つあります。まずはチャンネル22での全国放送です。私たちの番組が受け入れられ、全国テレビネットワークを通じてメキシコ全土で放送されるよう努力します。しかし、サンアンドレス・ララインサル村という特定のコミュニティには、WhatsAppビデオ、Facebook、YouTube等を利用して配信しなければなりません。コミュニティにドキュメンタリーを見せるには、公開イベントを実施する必要があり、政府や当局とも話をしなければなりません。特定のコミュニティと全国では、このようにそれぞれ異なる配信計画を考えています。

Q)では、来年を楽しみにしています。がんばってください。

E) ありがとうございます。