インタビュー
第46回「日本賞」教育コンテンツ国際コンクール【企画部門】 最優秀賞企画
『パムジとブヨ』 受賞リポート
NHKが主催する第46回「日本賞」教育コンテンツ国際コンクールの各受賞作品が11月8日、東京で発表・表彰されました。今年の企画部門には、19の国・地域から39企画の応募があり、最終選考に残った5企画の中から、『パムジとブヨ』(南アフリカ)が、最優秀企画に選ばれ、放送文化基金賞(賞金10,000ドル)を受賞しました。
授賞式では、ピクスコム所属のニコラス・ブキャナンさんに、放送文化基金の濱田純一理事長からトロフィーが贈られました。
企画部門は、予算や機材などの条件が十分でないために番組制作が困難な国・地域の放送局や制作プロダクションなどの優秀なテレビ番組企画を表彰し、番組として完成させることを目的としています。
今回最優秀賞に輝いた企画『パムジとブヨ』は、2種の絶滅危惧種のキャラクターを通じて、就学前の子供たちに環境保護の重要性を教えることを目的とするアニメーションです。ペンギンのパムジは、楽しく活発で、まだ物事がよく分かっていない女の子。ハゲタカのブヨは、まるで大人のような話し方をする、とても賢い子。この2つの対照的なキャラクターと、奏でられる音楽によって、アフリカの子供たちは、アフリカ大陸のさまざまな環境問題の重要性と深刻さを楽しく学ぶことができる番組企画です。
ブキャナン氏は、11月6日に催された審査員に対するファイナリスト・プレゼンテーションで、1種は海に、もう1種は山や崖に住むこれら2種類の絶滅の危機に瀕する鳥を登場させることについて、地球のさまざまな生態系を理解し、「鳥を守れば、環境を守ることになる」ことを、次世代の子供たちに気付かせるために重要であると強調しました。
11月8日に行われた授賞式で、ブキャナンさんにお話を伺いました。
Nicholas Buchanan(ニコラス・ブキャナン)さんへのインタビュー
Q)放送文化基金賞の受賞、おめでとうございます。まず、プロデューサーとしての経歴についてお聞かせください。
Nick) まず漫画本の分野でキャリアのスタートを切り、徐々にアニメーション制作を学んでいきました。サッカーなどのスポーツコミックから始めて、教育アニメも手がけるようになりました。
教育アニメの制作プラットフォームを探し出すのは非常に困難なので、日本賞は極めて重要です。
Q)所属するピクスコムについて教えてください。
Nick) ピクスコムは、2Dアニメーション制作会社です。この5年間、南アフリカのケープタウンにあるタウンシップ地域で活動し、人々にアニメーション制作を教えてきました。そして、『ジャブのジャングル(Jubu’s Jungle)』という自社制作のアニメシリーズの放送を南アフリカ全域と他のアフリカ諸国で開始しました。今回、さらなる向上を目指し、『パムジとブヨ』を企画して日本賞にエントリーしました。
Q)『パムジとブヨ』のアイデアは、どのようにして考え出したのですか?
Nick) 最初はサイのキャラクターと3歳の子供たちを考えていました。しかし、専門家や科学者に相談したところ、「鳥を守れば、木、植物、土、水を守ることができるので世界を守ることになる。絶滅の危機にある鳥をキャラクターにしてはどうか」と提案されました。そこで、異なる2つの環境に生息する鳥、つまり海に住むペンギンと高い山に住むハゲタカに注目しました。この2種類のキャラクターを通じて、アフリカのさまざまな生態系を取り上げることができます。これは、環境の専門家の助言に基づくアイデアです。
Q)まず環境の保護について考え、科学者に相談したわけですね。このアニメーションを制作する目的について、さらに詳しくご説明ください。
Nick) 世界の他の地域と同様、アフリカは地球温暖化と気候変動に直面しており、自然災害は以前より頻繁に発生しています。私たちの住む地域では、干ばつの間、水不足に陥り、約60日分の水しか残っていませんでした。次世代を担う子供たちに物事を適切に行うことを教える方法として、アニメーションはとても効果的と考えているのです。
Q)その結果、ペンギンとハゲタカという2種類の絶滅危惧種を選んだわけですね。
Nick) はい。物語をうまく伝えるためでした。一方は強く、もう一方は弱く設定されたこの2つのキャラクターが互いに対話すれば、それを目にする子供たちは教訓を容易に理解できます。一方のキャラクターは話が理解できず、もう一方のキャラクターから学びます。アニメーションに2つのキャラクターを登場させると仕事量は増えますが、ひとたび作り上げたら、後はうまくいくでしょう。
Q)どちらのキャラクターが強く、どちらが弱いのですか?
Nick) 弱いキャラクターは、まだ物事が分からず、判断力のないペンギンです。ハゲタカは聡明ですが、子供には理解できない大人のような言葉で話します。そこで、ペンギンは、子供たちの力を借りて、大人の話していることを理解しようと努力しなければなりません。
Q)レベルの違う2人の人物に対話させることはできるのですか?
Nick) いいえ。物語は、子供が理解できるように書きますが、子供たちのおとうさんやおかあさんも視野に入れています。そうすることによって、子供たちが疑問を持った場合、親が答えることができます。
Q)とてもキュートで美しいキャラクターですが、どのように創造、デザインしましたか?
Nick) 私たちは、国立大学でアニメーションを専攻する学生やインターンと仕事をしていますが、これは学生たちのアイデアです。さらにキュートにしたいのですが、放送文化基金から賞金をいただいたので、またいくらか手を加えます。子供たちがキャラクターを気に入るか否かは、番組の善し悪しを決める要ですからね。もっと研究しなければなりません。
Q)どのような方法でこの番組をアフリカや更にその他の地域に展開させますか?
Nick) アフリカでは、NetflixやインターネットYouTubeの利用料がとても高額なので、今なおテレビが主流です。人々は、インターネット料金を払う余裕がないため無料のテレビを視聴しています。私たちは、別の番組をアフリカの40カ国で、5つの言語で放送しています。『パムジとブヨ』でも同様の方法をとり、さらに多くの言語で放送したいと考えています。
Q)インターネットの利用料がそんなに高いのはなぜですか?
Nick) インターネットのインフラを構築するにはとてもお金がかかるからです。そのため各消費者に高額の負担が求められ、YouTubeを30分視聴するのに約$10かかってしまいます。特に子供たちは無理な話です。十年後には安くなっているかもしれませんが、今は無理です。テレビでなければなりません。
Q)放送文化基金は、放送文化の発展に寄与することを目的に設立されました。あなたにとって、放送文化はどんな意味がありますか?
Nick) 私たちの放送文化は存在していません。放送局は、この4年間破綻した状態です。私は2016年にコンテンツを制作しましたが、放送局は支払いができなかったため、受け渡さざるを得ませんでした。プロデューサーとして新しい番組をつくるには、非常に厳しい状況です。日本賞がなければ、新しい番組制作の夢は叶いませんでした。
放送局は、支払うお金がないため、あちこちに借金しています。とても厳しい環境で、実写も大変ですが、アニメーション制作はさらにお金がかかり、多くの人手を要するので困難を極めています。
Q)南アフリカに限らず、世界中で放送文化を発展させるためのアイデアはありますか?鍵となるのは何でしょう?
Nick) アフリカにとって鍵となるのは、無料のインターネットだと思います。そうすれば腐敗した政府に依存することなく、子供たちはアフリカのどこにいてもYouTubeにアクセスし、日本やアメリカ発信のコンテンツを見ることができます。一瞬にして、子供たちは同じ状況、環境になります。数年後、もしくは100年後かもしれませんが、YouTubeから話し方を学んだ子供たちは同じアクセントで話しているでしょう。私の娘はYouTubeを見ることができるので、アメリカのアクセントで話しますが、その他のアフリカの子供たちは閲覧できません。インターネットは、物事を容易にすると私は考えます。
もう1つの鍵は、現在徐々に移行しているデジタル放送になれば、数百ものチャンネルを設定することができます。さらに、携帯電話を使えば誰でもコンテンツ制作が可能です。アフリカに無料のインターネットを与え、コミュニティに各自で運営するテレビ局を持たせれば、それぞれ独自のニュースを制作することができます。タウンシップで試しましたが、うまくいっています。人々は、ローカルニュースを求めているのです。
私は、二月にインドに行きましたが、インドでは6年前、みんなに毎日無料のインターネット・アクセスを提供し始めました。今やインドでは、毎日1Gのデータを無料で入手することができるので、YouTubeやFacebookは非常に大きいです。
インドに関するもう1つの興味深い話になりますが、20年前、自国制作のアニメーションは存在しませんでしたが、今では年間100億ドル産業になりました。しかし、ディズニーではありませんでした。彼らは自国制作以外のアニメを求めていません。アフリカもこれと同じ状況になるかもしれませんが、20年かかりますね。
Q)ありがとうございました。作品の完成を楽しみにしています。