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見通し外FM波によって地震予知はできるか?
電気通信大学 教授 早川 正士

 小生の研究室の研究テーマは何ですかと聞かれると、最近は電磁環境学だと答えています。ある所から別の所へ情報を伝えることが通信ですが、その通信品質を決定するのが外部からの雑音です。雑音という言葉は一般的にあまりいい響きではなく、嫌われ者の様な感じですが、私はこの魅力に惹かれて約30年間雑音研究を一貫して行ってきました。雑音には色々な種類のものがあり、宇宙(地球周辺の電磁圏)から飛来するもの、大気現象に起因するもの(雷からの電磁放射)、更には生活空間での電気/電子機器等からの妨害波などがあります。
 今回の助成対象は通信に使われる高周波での電磁雑音の総合的研究です。通信に悪影響を与える雑音、干渉には(1)外部から来る外来雑音と(2)他局からの干渉の二種類があります。(1)の自然現象起因の雑音のなかには宇宙からの雑音や大気圏での雑音に加えて、地下(地圏)からの電磁放射が近年発見され、大注目を集めています。この電磁放射を用いて地震の短期予知が出来るのではないかという期待があるためです。次の(2)は、他局からの放送波が原因がはっきりせず混入することを意味します。この種の干渉の一例を示します。地震の際(主に前兆として)見通し外のFM放送波が受信される事が近年発見されました。即ち、FM波の放送サービスエリアは50km前後であり、通常は聞こえない遠くの放送局電波が数100km離れた地点にて受信されることがあるわけですが、この地震に伴う見通し外FM波の受信も地震予知に密接に関係し、皆様にも大いに興味のあるものなので、これらについてのみ紹介します。
 私達はすでに神戸地震の際に地震の効果が上空100km位に存在するプラズマ層(電離層)にも及んでいることを発見し、その後もVLF/LF送信局電波の伝搬異常を用いて地震前兆現象を検出する事に成功しています。その為、前述したFM放送波の見通し外受信にも興味があり、その信憑性を確かめるとともにそのメキャニズムを解明すべく、電通大の屋上に見通し外FM波の新しい受信システムを構築しました。そのメキャニズムを探るには見通し外FM波の到来方向(入射角と方位角)を決めることが重要で、複雑な八木アンテナの組合せによる方位測定システムを考案しました。この観測により、地震に伴って、即ち地震の3〜7日前後前に見通し外FM波が受信されることを確認し、しかもその到来方向推定より大気圏(高度〜10km)内の擾乱による反射ないし散乱によっていることを初めて明らかにしました。また見通し外FM波の大気圏散乱場所を八木アンテナシステムよりも正確に同定する為、新しく干渉計システムを構築しました。複数のアンテナを設置し、それらのアンテナへ到来する電波の位相差(時間差)から到来方向(方位角と入射角)を決めるのが干渉計です。予備観測としてFM調布局と放送大学放送局(テレビ塔)からの電波を受信し、干渉計による方位測定の有効性を確かめました。現在はFM仙台局を対象とした地震に伴う見通し外FM波の観測を続行し、興味深い結果が出ることが待たれます。
 更に、近く襲来する恐れのある南海、東南海地震にも備えるため和歌山−清水パスと大阪−鹿児島パスの見通し外FM波の観測ネットワークを追加し、観測を続けている。しかし、観測研究が進むにつれ、見通し外FM波の受信にも気象効果(ダクト伝搬)による効果がありそうな事もわかり、地震の影響とこの効果との弁別をどうするのかという新しい問題も提起されています。地震予知の実現を目標として、更に研究を進めています。
2006年9月掲載

平成15年度 助成/技術開発
「VHF帯通信妨害と電磁雑音」