番組制作者の声
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「ドラマ」が伝えること


菅 康弘 (NHK番組制作局芸能番組センター(ドラマ番組)チーフ・プロデューサー)


 私がドラマ作りに携わってから、16年になります。演出部としてスタートし、そして、ここ5〜6年はプロデューサーとして、ドラマ作りにかかわっています。演出部の頃も、プロデューサーになってからも、ただ、自分の考える「いいドラマ」を作ってきたつもりです。制作現場のまっただ中でドラマを作っているときには、今作っているドラマが、どうしたらよくなるか、面白くなるか、そして、そのドラマのテーマというようなことを一生懸命考えています。ところが、テレビというメディアの中で、「ドラマ」という表現手段は、どういう意味を持っているんだろう、というようなドラマを作るための大前提とでもいうべきことについては、あまり考える機会はありませんでした。
 しかし、そんな私が去年、「ドラマ」って何だろうと、真剣に考える機会がありました。テレビ放送開始50周年記念ドラマ「川、いつか海へ」の制作です。企画を立ち上げるとき、スタッフの間で、「テレビドラマはこの50年でいったい何を作り、なにを伝えてきたんだろう?」そして、「50年を経た今、何を作り、何を伝えていけばいいのだろう?」ということを、真剣に話し合いました。
 話し合いの末に出た結論は、「ドラマ」は50年間ずっと「愛」を伝えてきたのではないか、ということです。「愛」とは、男が女を、あるいは女が男を愛するということだけに留まらず、親子の愛や 友人への愛、広い範囲でいえば人類愛とか地球への愛とか・・。
そういう「愛」を、色々な角度から色々な切り方で、そして色々な切り口で形を変えて伝えてきたのではないかということです。そして、「ドラマ」がこれから伝えていくべきものも、その「愛」以外にはないのではないかということです。「川、いつか海へ」は、倉本聰さん、野沢尚さん、三谷幸喜さんという三人の脚本家による、リレー形式のオムニバスドラマという形をとりましたが、脚本家の皆さんとの打ち合わせでも、それを伝え、脚本を作り上げ、ドラマを制作しました。
 「川、いつか海へ」を制作してから、私は新しいドラマを企画するときに、「私は、このドラマで、どういう愛を、どういう形で伝えようとしているんだろう」と考えるようになりました。
 ドラマを見た誰かが、誰かにやさしくなれたり、少しでも誰かのことを思ったりできれば、その「ドラマ」は、表現手段としての役目を充分果たしているといえると思うのです。そして、それを続けることで、「ドラマ」という表現手段は、放送というメディアの中で「文化」と呼べるものを作っていけるのではないかと思っています。


<執筆者のご紹介>

菅 康弘(かん やすひろ) NHK番組制作局芸能番組センター(ドラマ番組)チーフ・プロデューサー 

1958(昭和33)年、愛媛県生まれ。
1982年NHK入局。1986年よりドラマ番組部ディレクターへ

○主な演出作品
大河ドラマ「翔ぶがごとく」・日中合作ドラマ「流れてやまず」・連続テレビ小説「ええにょぼ」・BSサスペンスドラマ「サザンスコール」
○主なプロデュース作品
ドラマ「流通戦争」・BSドラマ「鶴亀ワルツ」・水曜ドラマ「結婚前夜」・連続テレビ小説「ちゅらさん」2002年度エランドール賞プロデューサー賞受賞・連続ドラマ「ロッカーのハナコさん」2002年10月期月間ギャラクシー賞受賞・テレビ放送50年記念ドラマ「川、いつか海へ」
現在21世紀スペシャル大河「坂の上の雲」制作準備中。